親による「誘拐」が容認されている日本の異常 なぜ離婚後の共同親権が認められないのか
隠れた誘拐大国ニッポン――。近年、夫婦が別離した際などに、片方の親が子どもを連れ去り、もう片親が会えないという問題がメディアなどで取り上げられるようになっている。実際、配偶者と別れることを考えている相談者から、子どもの親権を確実に取るにはどうしたらよいかと聞かれたら、「日本では子どもを連れて家を出るのがいちばんだとアドバイスせざるをえない」とある弁護士は明かす。
日本の伝統的家族観は、母親が子どもの面倒を見て、父親が働いてお金を持ってくるというものだ。そのため、日本には両親の別離後も両親が子どもを共同で監護するという発想がなく、日本の警察や司法は片方の親による子どもの「連れ去り」を事実上容認している状態にある。その表向きの理由は、連れ去りを罰することは、それを容認するよりも、子どもに悪影響を与えるから、というものだ。
妻との口論後に子どもを連れ去られた
日本で言うところの連れ去りは、英語では「abduction」といい、通常、誘拐、拉致と訳される。ところが、日本ではこの行為を誘拐や拉致とは別のことのように捉えている。「片親が他方の親の同意なく子どもを連れ去ることは『誘拐」と表現するべきです」と児童精神分析に詳しい東京国際大学教授の小田切紀子氏はいう。
片方の親が子どもを連れ去った場合、裁判所や警察は介入しない。しかし、連れ去られた側が子どもを取り戻した場合、介入が起こる。このシステムでは、子どもを最初に連れ去った親が有利となる。連れ去った期間が長ければ長いほど、連れ去られた側の立場は弱くなる。
馬場満氏は昨年11月5日、妻との口論後に2人の子どもが連れ去られたと主張する。それ以来、彼が子どもに会えたのは30分間だ。子どもたちは彼の家から2キロもない場所に住んでいるが、会うことは許されていない。
子どものうちの1人は慢性的な病気で、離れて以来、馬場氏の知らないうちに2度入院。不眠症に苦しむ馬場氏は仕事を辞め、現在は夜タクシー運転手の仕事をしている。目下、さいたま家庭裁判所に子どもを取り返す訴えを起こしているが、子どもに会える可能性についてはあまり楽観視していない。実は、馬場氏自身15歳のときに父親に連れ去られ、父親から母親を嫌うように教えられた。「母親に再会できるまでに36年かかった」と、彼は話す。
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