かつては日産系列のトラック販売会社に勤務
「日産のカルロス・ゴーン会長らを逮捕 東京地検特捜部」――。
かつて、自分や同僚たちの人生を狂わせた男の転落を伝えるニュースだった。2018年11月、夕方のオフィス。東京都内の団体職員ヨウジさん(39歳、仮名)は、勤務中にたまたま立ち上げたインターネットのポータルサイトで、この速報を知った。ヨウジさんはかつて日産自動車系列の会社に勤務していたが、激しいリストラの真っ只中に置かれたことがある。
インタビューに応じるゴーン前会長の資料写真を眺めながら、「これが、私から奪った人、上司たちに涙を流させた人かと思いましたが、不思議と憤りとかはありませんでした」とヨウジさん。思い浮かんだのはベタな一節。平家物語の「おごれる者 久しからず」だったという。
ヨウジさんは東海地方の大学を卒業後、日産系列のトラック販売会社に、営業マンとして入社。「よくも悪くも日産らしい。ここで20年も勤めたら、係長くらいにはなれるかなと想像できる、のんびりした社風の会社でした」。年収は400万円ほどだったという。
入社から数年後、当時の石原慎太郎都知事の肝入りで行われた排ガス規制により、多くの事業所が業務用トラックの買い替えを余儀なくされた。業界にとっては特需だったが、営業マンにとっては毎月の残業時間が80時間を超える、いつ過労死してもおかしくない毎日だった。
「1カ月で十数台売れればいいところ、黙っていても30台近く売れるんです。売れて、売れてしょうがない。そんな状態が1、2年は続いたでしょうか」
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