公開!「観光列車」の製造費はこう決めている

近鉄が明かしたマーケティング戦略の秘訣

青の交響曲はしまかぜのように特別車両料金をさらに高くする方法は選ばなかった。距離が短いため大阪阿部野橋―吉野間の特別車両料金はわずか210円。同区間の運賃・特急料金・特別車両料金の合計は1690円と、決して高額ではない。

豪華ホテルのような客室(記者撮影)

その代わり、しまかぜは1日1往復のところ、青の交響曲は1日2往復にした。回転率を上げて収入を増やす方策だ。その結果、乗車率100%の状態が1年間続いた場合の年間収入は約1.3億円。つまり、約2年分の運賃・料金で車両製造費に見合うことになる。青の交響曲は派生収入を見込めない分、運賃・料金収入だけで投資額を回収しやすい収支モデルといえる。

「製造費2億円は予算上のボーダーライン」と黒田氏は言う。これ以上費用が増えると、資金回収が厳しくなるギリギリのラインだ。目いっぱい予算をかけただけに青の交響曲の車両は重厚そのものだ。たとえて言うなら「格式ある高級ホテル」。客室に足を踏み入れると床面のカーペットの「ふかふか感」に驚かされる。シートもボリュームたっぷりで、カーペットに負けないくらいふかふかだ。革張りのソファーが配置されたラウンジ車もまるで高級ホテルのラウンジのようだ。一方で、デッキ付近には公園によくあるようなベンチが置かれている。「屋外をイメージしている」(奥山氏)という。

他エリアの観光列車は競争相手か

大人の雰囲気にあふれるラウンジ車(記者撮影)

昨今は外部の著名デザイナーに内装や外装の設計を託す例が増えているが、近鉄はグループ内の設計・施工管理会社・全日本コンサルタントにデザインを任せた。「ネームバリューよりも細部まで責任を持ってくれる人のほうが重要」というのが起用の理由だが、気心の知れた業者と作業することで無駄なやりとりを省き、全体としてのコスト抑制につなげるという意味合いもあっただろう。結果、その製作費をはるかに超えるようなゴージャスな車両に仕上がった。

お隣の京都では京都丹後鉄道が著名デザイナー・水戸岡鋭治氏を起用、「くろまつ号」などの観光列車を走らせて人気を博している。「他エリアの観光列車はライバルになるのか」という問いに対して、黒田氏は少し考えたあと、「エリアが違うので競争相手とは思っていない」と答えた。「競争相手は観光列車ではなくエリアです。たとえば白浜と吉野のどちらに行こうか天秤にかけている人に、観光列車というプラスアルファを乗せることで吉野に傾いてもらう。青の交響曲はそういう位置づけです」。

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