公開!「観光列車」の製造費はこう決めている 近鉄が明かしたマーケティング戦略の秘訣

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伊勢志摩エリアにはしまかぜだけでなく、ファミリー層を意識した「つどい」という観光列車も走っている。吉野エリアにもファミリー向け列車やキャラクター列車を走らせるという案も出たが、同社がアンケート調査を行なったところ、吉野エリアの観光はシニア層が多く、ファミリー層は少ないという結果が出た。1年かがりの議論の結果、「大人同士でゆったりと楽しむ観光列車」がコンセプトとなった。

観光列車の開発で悩ましいのが費用対効果、つまり、車両製造費用に見合う収益効果が見込めるかどうかだ。しまかぜの製造費は3編成で51.5億円。前述のとおり、近鉄の通常の特急列車と比べるとかなり割高だ。

近鉄の観光列車「しまかぜ」(写真:ゴスペル/PIXTA)

近鉄では、運賃、特急料金、そしてJRのグリーン料金に相当する特別車両料金を距離に応じて徴収しているが、しまかぜの場合、割高な製造費を回収するため、「しまかぜ特別車両料金」を設定している。大阪難波―賢島間のしまかぜ特別車両料金は1030円。通常の特別車両料金の約2倍だ。

運賃・特急料金・しまかぜ特別車両料金を合計した大阪難波―賢島間の総額は4950円。京都発着、名古屋発着も同様に計算して、乗車率100%の状態が1年間続いたとすると3編成合計の年間収入はおよそ13億円になる。乱暴な計算だが、約4年分の運賃・料金収入で製造費用51.5億円に見合うことになる。実際には乗車率が100%とは限らず、諸経費がかさむだろうから投資額を回収するにはこの何倍もの年月がかかる。

吉野は周辺で稼げない

ただし、「しかまぜが発着する伊勢志摩エリアには志摩観光ホテルや志摩スペイン村をはじめ、当社のホテルや遊園地などがたくさんある。しまかぜのお客様が当社の施設をご利用いただければ、トータルで採算がとれる」(黒田氏)。つまり、近鉄側は鉄道からだけでなく、ホテルや遊園地などさまざまな派生収入も見込んで、しまかぜの収支モデルを構築している。

では、吉野を走る観光列車にどれだけの製造費用を投入できるか。「吉野線の潜在的な魅力は大きいが、このエリアの当社施設は決して多くはない」(黒田氏)。このエリアに観光客が押し寄せても、近鉄は派生収入が得られないのだ。

そのため、青の交響曲は製造コスト抑制のためゼロから新車を作るのではなく、既存の通勤列車を改造する道を選んだ。当初は2両編成、あるいは4両編成の特急列車を改造することも検討されたが、「2両では窮屈だし4両では過剰」(近鉄鉄道本部技術管理部の奥山元紀主査)という理由から3両編成の通勤車両を改造することになった。改造費用は総額2億円。1両あたりの費用で換算すれば、しまかぜの4分の1となる。

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