底力を発揮する日本の蓄電池産業、新エネルギーブームで世界が注目

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潜在市場は6兆円 国も開発を先導

では今後、具体的にどれくらいの蓄電池需要が生じるのか。一つの指標として、日本では経済産業省が昨年発表した「長期エネルギー需給見通し」の再生可能エネルギー導入目標値がある。そこでは30年までに太陽光発電で最大5321万キロワット、風力発電で最大661万キロワットの導入をターゲットにしている。電気事業連合会は08年5月、太陽光、風力発電の受け入れ可能量の試算を行い、太陽光発電で1000万キロワット程度、風力発電で500万キロワットが、安定性を損なわずに許容できる限界線とした。日本の導入目標はこの許容量を大きく上回る。このため経済産業省では、太陽光発電だけで最大6兆円の蓄電池設置コストが30年までに必要と試算。これは現在の国内蓄電池販売総額の8倍に当たる。

海外の需要規模はさらに大きい。米国では再生可能エネルギーの電力供給比率を25年までに25%、EU(欧州連合)では20年までに20%に引き上げる方針で、日本以上に高い目標を掲げる。「われわれも大規模な蓄電池開発に関心を持ち始めている。今後数年のうちに次々と大規模な実証研究プロジェクトを立ち上げるだろう」(欧州委員会のラファエル・リベラーリ研究総局エネルギー局長)。三菱総合研究所の推計によれば、海外の再生可能エネルギー向け蓄電池需要は、20年に日本の21~85倍に膨らむ可能性がある。

「次世代蓄電池は自動車用に注目が集まりがちだが、再生可能エネルギー用としての潜在需要も非常に大きい」と、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の弓取修二・蓄電技術開発室長は指摘する。独立行政法人NEDOでは06年から再生可能エネルギー用蓄電池の開発、実用化の専門プロジェクトを立ち上げている。08年度は22億円の予算枠を設定し、NAS電池に続く新たな蓄電装置の開発に意欲を燃やす企業への助成を行っている。国家レベルでこうしたプロジェクトを走らせているのは、世界でも日本だけだ。「今後も日本の蓄電産業が世界市場での競争力を維持するために、国として開発を支援することは国益にもかなっている」(弓取氏)。

総合重機大手の川崎重工業は、NEDOの助成を受ける1社だ。同社はニッケル水素電池を用いた大規模蓄電装置の開発を推進。06年以降、国内各地の風力発電所や太陽電池を導入する教育機関などに蓄電池を併設し、実証研究を進めている。石川勝也・技術開発本部プロジェクト部長は自社電池の特徴を「安全で、かつ高速の充放電にも耐えられる」と説明する。従来型のニッケル水素電池よりも熱を逃がしやすくする独自の組み立て構造を採用し、安全性を維持しつつ大型化を実現した。

慶應大学発ベンチャーのエリーパワーは、リチウムイオン電池で勝負を挑む。08年4月、シャープと資本提携を結び、太陽光発電と蓄電池を一体にした装置の共同開発に向けて動き出した。10年にも商品化し、地方自治体の避難所やオフィスビルへと順次展開、量産化による価格下落を待って「最終的には家庭用を販売していく」(吉田博一・エリーパワー社長)方針だ。現在、川崎市に年産20万セルの能力を持つリチウムイオン電池の工場を建設中で、09年度末にも稼働を始める。

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