東京地検の新トップ「特捜部は変化に対応を」

取り調べの可視化が進んでも真相解明は同じ

――「割り屋」として、被疑者に向き合う時の心情は、どんなものだったのか。

私の場合は幸い、被疑者の人柄がよくて話してくれたが、被疑者がやっとこさ話してくれるのは、今も昔も変わらない。どうしたら話してくれるかは今もって「わからない」が、「こうしたら話してくれない」というのはわかる。それは相手をののしったり、どなりつけたりすることだ。そうしたら、話すわけがない。取り調べの録音・録画が進んでいる今も同じだが、被疑者がカメラを意識することで、話してもらうのはもっと難しくなっているのではないか。話してもらうのに、極意なんてない。

――イトマン事件以外、たとえば大手証券の総会屋への利益供与事件での思い出は。

いろいろな思い出が走馬灯のように駆け巡るが、話してもらうまで(総会屋に)何回も通ったよな、というのが一番の思い出だ。顔の表情が本当のことを話す前と後とで違う。話すことで吹っ切れてくれたんだな、というのが思い出。これはどんな事件でもそうで、こわばっていた表情が、話すことで変わる。そうなってもらうように努力していた。

取り調べの録音・録画で任意性は争わず

――取り調べの録音・録画が進んでいることについてはどう思うか。

難しい事件でせっかく話してもらっても、量刑を気にして、公判で自白の任意性を争うということがよくあった。任意性の争いは難しい事件につきものだった。それが、取り調べの録音・録画が進み、弁護人も自白の任意性を疑う主張をしなくなった。自白の任意性を争点化したまま、公判が続くということはなくなった。

――昔と今とで特捜部は何が違うか。

昔、上司が「割ってこい(=自白をとってこい)」と言っていたのは、「乱暴なことをしてこい」という意味ではない。「これだけの証拠があるのだから」というのを、短い言葉で集約して、「割ってこい」の一言で表現していただけだ。今の上司は、「~についてはどうなっている」などと因数分解して言い、「割ってこい」とは言わない。昔の部下は気が弱かったのか、上司に一言怒鳴られれば、ついてきた。しかし、今の部下は、怒鳴られたくらいでは動いてくれない。

――現役の特捜部の検察官に伝えたいことは。

録音・録画が進み、カメラを意識しながら話してもらうのは、みなさんが思っている以上に大変な作業。暴力団員ならば、「親分が後で録画を見るかもしれない」と思いながら、話してもらう。そこを乗り越えてきてもらわないといけない。客観証拠のみではなく、内心の意思が本当はどうだったのかを調べつくさないと、後で裁判官を心配させることになるが、そうさせてはいけない。「客観証拠があるからいい」としていては、そこで真相解明は終わってしまう。取り調べ室で被疑者に真相を語ってもらい、反省を述べてもらう必要性は、なくなっていない。
 

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