2016年が5年ぶりの円高ドル安になる理由 実質実効相場でみれば今がそのとき

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来年は円高ドル安方向をメインシナリオに据えるにしても、もちろん、リスクシナリオは当然ある。

2016年も引き続き円安ドル高となるリスク(メインシナリオから見ればアップサイドリスク)としては何が考えられるか。

日本銀行が追加緩和を行う可能性は低い

第一に米国経済が予想外に底堅く、FRBの正常化プロセスが想定以上に巧くいく、ということである。その場合、順当にドル高相場が続き、ドル円相場も5年連続の円安を目指すことになる(2015年がこのまま年初対比で円安ドル高で引ける、という前提)。

だが既に述べたように、ドル高局面は相当長く、しかも速いものになっている。足元で生じているドル高の余波を踏まえれば、連続的な利上げとそれに応じた堅調な景気回復というセットは徐々に両立が難しくなっているように思われる。

第二に、日銀が追加緩和を行う、という可能性は残る。これは2016年7月の参院選を前に株価を下支えたいという政治的配慮が家計部門の実質所得を回復させたいという政治的配慮に勝るという展開である。しかし、携帯電話料金や消費増税に伴う軽減税率導入を巡る議論などを見る限り、政府・与党が積極的に今以上の円安・物価高を許容する展開は見通しづらい。

第三に、ドル調達を巡る逼迫状況が続く、ということである。足元のドル調達コスト急騰は利上げ前、年末越えという季節要因が意識された結果、際立ってドル需要が高まっているとの側面が強そうだが、それ以前に構造的な各種規制要因が寄与しているという側面も指摘される。端的に言えば「簡単にドルを放出するわけにはいかない」との思いを抱く金融機関などが増える中で、ドルの希少価値が実体経済の強弱とは別に高止まりしたままという可能性は確かにある。

一方、メインシナリオで想定する以上に円高ドル安になるリスク(メインシナリオから見ればダウンサイドリスク)としては、米経済の好循環が遂に終焉を迎え、金融政策が正常化どころか追加緩和(例えばQE4など)に向かうような展開が考えられる。この場合、日本におけるいかなる政策運営にも拘わらず、円高ドル安の流れが作られてしまうだろう。繰り返し述べたように、REERで見れば行き過ぎた円安となっている疑いは根強いものがあり、本格的な調整が訪れた場合の震度はかなり大きくなる可能性もある。

なお、日銀の量的質的緩和(QQE)が巻き戻される展開なども円高ドル安の値動きを引き起こすリスクとして注目されるが、消費増税を控えた2016年中にそのようなことが起きるとは思えない。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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