日産、間接支配を狙う仏政府へ対抗できるか ルノーへ日産との経営統合を要請していた

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前出の服部氏も「ルノーが日産の実質親会社であるという構図に変化はなく、ルノーとしてはのみやすい」と一定の評価はするが「日産がルノーの経営に意見を言えるようになり、両社の関係には微妙な変化が生じる」と指摘する。

ゴーンCEO下で役員を務めた日産OBも、「スケールメリットを出していくためにも、日産・ルノー双方が対等の意識を持って一体経営するのが必須だ」と話し、日産とルノーの「不平等な関係」が改善されるシナリオ2を支持する。

方法としては日産が新株を発行するか、ルノーが日産株の一部を売却するかが考えられる。前者については、増資により日産の株式が希薄化されるため、一般株主の反発も予想される。実際、日産も「新株を発行する計画はない」とコメントを出して否定している。

実態面では日産とルノーの一体化は進んでいる

 それでは後者のルノーが日産株の一部を売却する方法はどうだろうか。ルノーの内規では、自社保有株の売却については2億5000万ユーロを超える場合は取締役会の承認を求めており、日産株に当てはめると、出資比率ベースで0.6%を超える売却に相当する。

従って、ルノーの取締役会の決定事項になるが、そう単純な話でもない。フランス商法に詳しいTMI総合法律事務所の内海英博弁護士、ル ドゥサール・デヴィ弁護士(フランス法)は、「ルノーと日産が結んでいる契約次第では、日産の取締役会の承認も必要になる。契約の当事者ではない仏政府から承認を得る必要はないが、監督官庁でもあるため、事前に相談をするのが一般的だろう」と話す。連合が仏政府を抜きに一方的に話を進めるわけにも行かず、タフな交渉が伴うことが予想される。

日産とルノーのCEOを兼務するカルロス・ゴーン氏は最適解を導けるか(撮影:尾形文繁)

2つのシナリオが浮上しているが、そもそも日産とルノーが資本関係の見直しを行わない可能性もある。仏政府はここに来て態度をやや軟化させ、ルノーに対する政府の議決権行使を限定的なものにとどめる妥協案を検討しているものとみられる。話し合い次第では、何らかの条件付きで仏政府の議決権が来春約28%に拡大するのを連合が容認することもありうる。

日産とルノーは2014年4月に研究開発、生産技術、購買、人事の主要4機能を統合し、コックピットやエンジンなどで「CMF」と呼ばれるモジュール化を加速させている。ボストン・コンサルティング・グループの古宮聡シニア・パートナーは「主要なエンジンやプラットフォームの共通化は緒に就いたばかりで、事業運営の一体化をさらに進めるためにも、経営の自由度を担保しておきたいのではないか」とゴーン氏の心中を察する。

ゴーン氏は具体的な戦術については一切明かさないが、「全ての関係者が納得いく方法を考え、知恵を持って冷静に決断する」と述べている。ルノーは12月11日に取締役会を開催予定で、仏政府にはそれまでに買い増したルノー株を売却するなどの具体案を示すよう求めているようだ。

現在世界4位の日産・ルノー連合がトップ3入りを目指し競争力を引き上げていく上でも、仏政府による経営への関与をどのように抑制するかは大きなカギを握る。日仏自動車連合は今まさに正念場を迎えている。

 

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年10月から東洋経済編集部でニュースや特集の編集を担当。

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