鉄道大手が今、「ベンチャー投資」に走る事情 東急、阪急阪神、西鉄が相次いで参戦

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審査講評は行われなかったため、これら3社の受賞の理由は明らかにされていない。「優劣を競うのが目的ではない」(東急)からだ。ただ、受賞企業3社には共通した特徴がある。それは、世界最先端のテクノロジーを活用して、東急沿線にとどまらず、日本経済を変えるほどのパワーを秘めているということだ。

逆に、選に漏れた企業のビジネスプランは、すぐに実行できるものばかり。短期間で成功する可能性も高そうだ。つまり、今回東急が選んだのは、長期的な視点で大きく育ちそうなビジネスプランだったということになる。

東急が置かれた切迫した状況

東急の拠点である渋谷は、地盤沈下が叫ばれている(撮影:梅谷秀司)

マイクロソフト、グーグル、アマゾン、フェイスブック…。現在、世界経済を牽引する企業の多くも、元をたどれば新興企業だ。

経済産業省によれば、米国のトップ企業の約3分の1が1980年以降に設立された企業。対して日本で1980年以降に設立された大企業はソフトバンク、楽天などわずかにとどまる。

「東急は世界を変革させるビジネスをベンチャー企業とともに作っていく」と同社の担当者は言う。ただ、こうした長期的な理念の裏には、もっと切迫した事情もある。それは、東急の拠点である渋谷という街の魅力が低下していることだ。

1990年代後半、渋谷は「ビットバレー」と呼ばれ、インターネット関連企業の多くが本社を構えていた。こうした企業は成長するにつれ、オフィススペースを拡充する必要に迫られた。が、いかんせん、渋谷にはIT化に対応したオフィスビルが不足していた。多くの企業が広いオフィスを求めて、六本木などほかのエリアに転出してしまったのだ。

一方、現在の渋谷はスクランブル交差点をはじめとして、世界的な観光名所となっている。交差点を往来する人々をカメラに収めようとする外国人観光客の姿が絶えない。東急やJR東日本による渋谷再開発も進んでいる。2019年度には渋谷駅上に高さ230メートルの超高層オフィスビルが出現する予定だ。

世界が注目する渋谷を、ベンチャービジネスの拠点として復活させたい。今回の受賞企業3社の本社はいずれも渋谷以外にあるが、オフィス環境が整えば、渋谷に居を移す可能性もある。東急のベンチャー支援の裏側には、こうした狙いも隠されている。

そう考えると、阪急阪神や西鉄の動きも納得がいく。阪急阪神は昨年11月、梅田駅前のビルにベンチャー支援のための会員制オフィスを開設した。西鉄も起業家にオフィススペースを提供するほか、事業アドバイスを行う企業家育成プログラム「天神COLOR」を6月、福岡市の天神地区に立ち上げた。梅田や天神の“地盤沈下”を食い止めるための動きといえる。

百貨店から遊園地まで、私鉄各社は沿線にさまざまな施設を作って鉄道利用者を増やしてきた。ベンチャー企業を誘致してオフィス需要を増やすという今回の動きも、その流れに連なるものといえそうだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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