あの新幹線メーカーが大赤字に陥った事情 鉄道車両の海外生産に潜む「リスク」とは?
だが、この急拡大が裏目に出た。工場開設に伴い、現地で従業員を大量に採用したが、鉄道車両の製造は未経験という人材が多数を占めた。そのため、現地採用した従業員の技術の習熟度が想定したレベルに届いていなかったという。製造現場が混乱し、納期が遅れた結果、日本車輌の2014年度業績は7年ぶりの最終赤字に転落した。
今期は、現地へ派遣した50人近いベテランの日本人社員が手取り足取り教えている。現地従業員の習熟度も少しずつ上がってきた。
そんな矢先、新たなトラブルが発生した。大型案件のプロトタイプ車両が強度テストをクリアできず、設計見直しを余儀なくされたのだ。
この結果、大型案件の製造工程に遅延が生じ、納期に間に合わないことが確実となった。日本車輌は、追加設計費用や製造工程の見直しに伴う費用、さらに納期遅れに伴う発注先への補償金など、諸々の費用が発生。2015年度の通期業績は、期初計画の20億円の最終黒字から138億円の最終赤字へ下方修正するに至った。
同社によれば「影響は来期にも及ぶ」という。業績の立て直しにはまだ時間がかかりそうだ。
トラブルはどのメーカーにも起こりうる
米国で鉄道車両製造を行っている国内メーカーは、日本車輌だけではない。川崎重工はワシントンやニューヨークに地下鉄車両を納入し、米国での地下鉄シェアはトップクラスを誇る。近鉄グループの近畿車輛はシアトル、ダラスなどの主要都市でLRV(低床式路面電車)を展開中だ。
日立製作所も英国で高速鉄道車両の生産を行うため、9月にイングランド北東部に工場を開設した。国内の鉄道需要が頭打ちになる中で、各社は軸足を海外に移しつつある。
ある鉄道車両メーカー幹部は「従業員の習熟度の遅れは仕方ないが、設計見直しというのはあり得ない」と驚きを隠さない。強度不足の原因として当初は製造工程上の問題や作業ミスも指摘されたが、結局のところ、そもそもの設計に問題があった。日本車輌のように豊富な海外経験を持つメーカーでさえ、こうした事態は起きるのだ。
鉄道整備を急ぐ新興国の多くが現地生産を目標としている。だとすれば、従業員の技術習得の問題はどの国でも起こりうる。政府が国を挙げて取り組んでいる新幹線の輸出にも、こうしたリスクは潜んでいる。「新幹線の技術は世界一」などと自画自賛している場合ではない。
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