逆風に苦しむ野村ホールディングス “国内頼み”のほころび
事前の需要調査では全体の90%に当たる個人向けの注文は6倍、残りの機関投資家向けは25倍。機関投資家からの人気が集中する中、主幹事で売り出し総数の80%の販売を担った野村証券が行ったのが、長く株を保有する国内個人投資家への販売だ。しかも任されたのは全国の営業店の女性営業員。男社会の証券業界では異例だった。女性営業員のほうが新しい資金を呼び込むのに力を発揮するというのが理由だ。
結果はどうだったか。女性営業員は需要を引き出し、瞬く間に売りさばいた。野村にはそれだけの底力がある。
にもかかわらず、仮にも回転売買が疑われるような営業を続ければ、市場の信認を失墜させる可能性がある。しかも野村は、国際石油開発帝石などの公募増資をめぐるインサイダー取引問題で情報提供した疑いで、証券取引等監視委員会による特別検査を受けている。これらの行為が実際に行われていたら、野村が誇ってきたセカンダリーマーケットでの力は台無しとなりかねない。証券業の自壊行為である。
野村証券に籍を置いたこともある経済評論家の三國陽夫氏は、著書『市場に聞く 日本経済・金融の変革』(小社刊)の中で、こう記している。
「大恐慌後、ウォール街の古老が『清濁併せのむ業者の論理は終わり、白黒をはっきりさせる大衆の世界が来た』と語った」
その言葉を借りれば、野村は長引く証券不況と海外戦略の蹉跌という苦しさのあまり業者の論理に埋没するか、あるいは自身のベクトルを大衆の世界に切り替えるかを迫られている。もちろん、大衆の世界はセカンダリーマーケットにある。
セブン銀行の案件のような新しい道を選択するか、旧態依然とした過剰なバイアスをかけ続けるのか。今の野村には営業の“質”における「選択と集中」が求められている。
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(浪川 攻 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済2012年6月16日号)
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