危機の時代に「カリスマ的救済者」の出現が持つ歴史的意味/総選挙での自民党圧勝と再魔術化する世界
もちろん、冷めた目で見た者も多くいたのだが、多くは彼に吸い寄せられていったのである。その理由は、当時のドイツ社会の不安にあった。
ドイツは第1次世界大戦の敗北後、ドイツ帝国に代わってワイマール共和制を設立する。この体制は大統領と議会によるきわめて民主的な体制であった。それは法と秩序によるきわめて理性的な世界の実現を目標としていた。
民主的だったワイマール共和制の崩壊
しかしこの体制は「船頭多くして」のたとえ通り、乱立する少数政党が対立し、不安定さをさらけ出す。しかも戦後の超インフレと莫大な賠償金、そしてドイツの誇る工業地区ルールのフランスへの割譲によって、経済的生活はどん底に落ちていく。しかも29年の世界大恐慌というさらなる追い打ちによって、人々の不満は爆発していく。
現実に絶望した人々は、ヒトラーの姿に救世主の出現の夢を見た。ある女性は、興奮のあまり、こう述べたという。
1960年代に「ビートルズ旋風」というものが若者の心を捉えた。世界中を熱狂させたのだ。64年の東京オリンピックが終わった直後、「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」という映画を見にいったことがある。映画館の中で興奮のあまりスクリーンに向かって泣き叫んでいる少女たちを見たのだ。なんと、映画に向かって熱狂していたのである。

あのヒステリックな興奮は、すべてをアイドルに捧げることで、心を癒やす一種の恍惚(こうこつ)感であったのかもしれない。もちろん、こうしたアイドル現象に、ヒトラーの独裁体制のような危険性はない。
人間は、理性と狂気の間を行きつ戻りつ生きている。18世紀の西欧の思想家たちは、啓蒙主義という理性信仰を作り上げたが、神話や伝統は容易に失せるものではなかった。とりわけその反動が、19世紀のロマン主義であったと、ナチス時代の思想家カール・シュミット(1888~1985年)は述べている。
ナポレオン戦争で疲弊した後に広まった西欧のロマン主義は、良き日を懐かしむノスタルジーの中で、廃墟と化した世界から目をそらす願望となったのかもしれない。


















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