悩んでコケて挑戦して 哲人経営者、最後の勝負(下) 小林喜光 三菱ケミカルホールディングス社長
言われるまでもない。小林は腹を固めた。三菱ケミカルHDの保守本流、エチレンセンターを軸とする石油化学部門の大整理である。
塩ビ樹脂、ポリスチレン原料、ABS樹脂--。不採算事業から軒並み撤退し、約150億円の赤字を解消した。従来、「連産品」(石油化学の一連の工程で同時に生成される製品群)のジレンマにとらわれ、「こっちで儲けるから、これは赤字でもいい」がまかり通っていた。そのジレンマを一刀両断に断ち切った。
大本のエチレンセンターについては、岡山・水島地区で隣接する旭化成と運営統合を09年夏に表明。ここまで踏み込んだのは業界で初めてだった。小林は相次ぐ災厄を逆手に取り、平時では考えられない大整理を一気呵成にやってのけたのである。
ただし、整理だけでは縮小均衡に陥る。小林のすごさは返す刀でM&Aを発動し、規模拡大を図ったことである。ターゲットは約4000億円の売り上げを持つ三菱レイヨンだ。
だが、統合交渉はTOB(株式公開買い付け)価格をめぐって暗礁に乗り上げた。当時、レイヨン社長だった鎌原正直(現三菱レイヨン取締役)が言う。「もうやめときましょう。そう言ったほうがよほど楽、という局面があった」。
小林が振り返る。「(双方が主張する価格は)これだけ離れている。足して2で割ればいいというわけでもないし」。決着したTOB価格は380円、総額で約2100億円。直前の株価に4割程度のプレミアムを乗せた。明言しないが小林が大きく譲ったのだろう。「僕は先を見たから。5年、10年先。いろいろあるが、これは進めるべきだ、と」。
譲歩で小林が得たものがある。