日本においては、②はエリートというよりも既得権益や外国勢力という言葉で言い表したほうがより的確だろう(もちろん、この中に私利私欲にまみれた一部のエリートが含まれている)。つまり、後者(『人民』の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動)は「反既得権益型ポピュリズム」と言い換えることができる。ただし、日本のマジョリティーは過激な言動や、極端な立場を嫌うため、支持を広げる観点から最適な政策とアピールが模索されてきた。
最初に最適解を具現化し、支持層の拡大に成功したのは国民民主党だった。国民民主党の綱領には、「国民が主役の改革中道政党」「私たちは、『生活者』『納税者』『消費者』『働く者』の立場に立ちます」とある一方で、「対決より解決」という現実的な穏健路線を採用し、街頭演説やSNS上で草の根運動を徹底的に展開した。
哲学者のスラヴォイ・ジジェクは、このような「熱意を焚きつけたり、扇動的スローガンに頼ったりせずに、理性的な専門政治と実利的なアプローチを通して国民の生活を守ると約束する、明らかなポピュリズム・アピールを伴う政治運動(左派でも右派でもなく、人々の『真の利益』のために働く)」について、「テクノ・ポピュリズム」と呼ぶ(『戦時から目覚めよ 未来なき今、何をなすべきか』富永晶子訳、NHK出版)。
政策スタイルの「ポピュリズム政党化」
このように、高市内閣の経済政策は、多数の国民が感じている物価高や実質賃金の低迷に対する緊急の手当てではあるものの、高市氏が国民民主党の玉木代表との党首討論で、「年収の壁問題」について「さまざまな工夫をしながら、しっかりと一緒に関所を乗り越えてまいりましょう」と互いにエールを送り合ったことが象徴しているとおり、政策スタイルのポピュリズム政党化なのだ。
一見、「野党の政策盗用」や切り崩しに思えなくもないが、与党も野党もポピュリズムの効用を無視できなくなっていることの表れでしかない。国民民主党から始まった日本版「テクノ・ポピュリズム」は、高市内閣下において「ガソリンの暫定税率の廃止」として実現し、「年収の壁問題」などへと波及していくことが予想されている(高市氏の所信表明演説で出てきた「給付付き税額控除」も国民民主党が創設を謳っていたものだ)。
加えて、国力の衰退とともに人々の間に広がる自信喪失が、国内外に強い意思と行動力を示せる指導者を求める原動力になっている。これがもともと日本のマジョリティーが抱いていた保守志向と合致し、台湾有事をめぐる「存立危機事態」発言からの日中の緊張状態は、むしろ高支持率に寄与している面すらある。



















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