5期ぶり赤字転落の三菱自動車、環境激変で戦略は練り直し、カギは地域戦略とアライアンス
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「(日本国内に関しては)早期退職のような大きな構造改革をやるつもりはない。やってもよくはならない。みんなの知恵を集めて会社を変えていけるようにしよう」。三菱自動車工業の加藤隆雄社長兼CEO(最高経営責任者)は11月6日午後に開かれた社内向けの決算説明会でそう呼びかけた。
「リストラに関する質問が出ていなかったにもかかわらず、わざわざ構造改革をやるつもりはないと強調した。かなり危機感があるということではないか」。ある三菱自幹部はそう解説する。
三菱自の2026年3月期上期(4~9月)は、営業利益が前年比81%減となる173億円、最終損益は92億円の赤字に沈んだ。上期決算での最終赤字は20年4~9月以来5年ぶりとなる。
前上期比での為替要因384億円、トランプ関税影響277億円、北米を中心とする販売費用の増加などが営業減益要因となった。加えて、中国におけるエンジン部品の生産終了に伴う損失や環境クレジットの評価損など特別損失がかさんだ。
そもそも売り上げの基盤となる自動車販売が振るわない。今上期の販売台数は前年同期比6%減の38.4万台。柱の東南アジアが同10%減、近年、営業利益の約半分をたたき出すこともあった北米と戦略市場に位置付けるオセアニアも10%以上減少した。
一過性ではない経営環境の大きな変化
5年前の上半期は営業赤字826億円、最終赤字2098億円だった。足元の数字ははるかにマシだが、むしろ状況は厳しいと言える。前回は日産自動車傘下入り後の拡大戦略の反動にコロナ禍での生産・販売の停滞が重なるという一過性要因だったのに対し、今回は自動車メーカーを取り巻く経営環境に大きな変化があるからだ。
その1つが中国メーカーの躍進だ。世界最大の自動車市場である中国はかつて日米欧メーカーが主役だったが、EV(電気自動車)とPHV(プラグインハイブリッド車)で先駆けた中国勢が大きくシェアを伸ばしている。さらにEV・PHV世界最大手BYDを筆頭に中国勢は東南アジアへ続々と進出、安値攻勢をかけている。結果、21年4~9月期にタイで6.2%、インドネシアで12.6%だった三菱自のシェアは、25年4~9月期に4.6%、8.5%まで低下してしまった。
もう1つはアメリカのトランプ大統領の再登場だ。15年にアメリカのイリノイ工場を閉鎖した三菱自だったが、近年はアメリカへの輸出で高収益を叩き出していた。25年3月期の営業利益1388億円のうち、769億円をアメリカを中心とする北米事業が稼ぎ出した。だが、トランプ大統領による関税政策によって、「今までは大もうけをしてきたが大きな影響を受けるようになった」(加藤社長)。今上期は円高影響もあって北米事業は39億円の営業赤字に転落してしまった。
中国勢の躍進、アメリカの関税政策、いずれも多くの自動車メーカーに共通する問題ではある。三菱自が厳しいのは、東南アジアと北米市場の依存度が高いうえ、日本の乗用車メーカー最小で経営に余裕がないことが大きい。




















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