「実は2020年の冬にもその人が『安藤さんはいい人だよ。一緒に飲みに行かへん?』と誘ってくれたことがあります。でも、あの頃は長女の世話に必死だったんです。ほかのことは何も考えられず、『ゴメンな』と断わってしまいました」
四国出身の留美さん。単身で大阪に出て工場に就職し、「女友だちを作りたい」という気持ちでアルバイトをしていた居酒屋で前夫の正雄さん(仮名)と知り合った。25歳で長女を授かり、「できちゃった婚」で正雄さんの実家で義父と4人暮らしを始めた。その後次女と三女も生まれた。
「前夫はプライドが高い人。食卓では醤油も自分で取らず、おかずも子どもたちと同じメニューでは許してくれませんでした。ギャンブルと飲み歩きが好きで、生活費はあまり入れてくれず、家で酒を飲むとちょっとしたことでも怒って机をひっくり返したり……」
長女への暴言・暴力耐えられず家出を決意
それでも子どもがいるので我慢していた留美さん。しかし、どうしても耐えられないことがあった。長女が4歳で学習障害と診断されたのだが、正雄さんはその事実を受け入れられず、暴言を吐いては暴力を振るっていたのだ。
「娘は高校に行きたくて朝7時から勉強していました。それでも無理なものは無理なのです。そんな娘に残酷な言葉を投げかけた前夫を見て、『この人はダメだ』と気持ちが切れて家を出ました。四国にいる両親には心配させたくなかったので、大阪の妹にだけ相談して近くにアパートを借りました。引っ越すお金もなく、荷物はママ友が車で運んでくれました」
家出は2017年の冬のこと。引っ越し初日、娘たちとこたつで寛ぎ、お茶漬けを食べてそのまま眠りについた幸福感を、留美さんは今でも覚えているという。
「前夫と義父の前では、女の私たちがこたつで横になるなんて許されませんでした。食事がお茶漬けだけというのもありえませんでしたから、本当に久々に、伸び伸び暮らせるようになりました」
心残りもある。次女は、学習障害の姉と同じ学校に通っていたため友だちにいじめられていたこともあり、留美さんたちについてこなかったのだ。正雄さんが「お母さんと一緒だと生活保護だぞ。家に残れば、お前は大学に行かせてやる」と誘ったという。



















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