「懲役112分、罰金2000円」との声まで…細田守「果てしなきスカーレット」はなぜ低調発進? 前作との"差"から初動大コケの要因を考える
どれだけ美しい映像や音楽で作品の世界観に引き込んでも、唐突すぎる・整合性がないといういわゆる「ご都合主義」な言動が多すぎると冷めてしまう……これが近年の細田作品に対する現実的な批判だ。
細田守ファンが求める「家族」「恋愛」「青春」の3要素
また、高評価な細田守監督作品にはどれも「家族」「恋愛」「青春」の3要素が描写されている。片思いや失恋、大切な人を守るために一歩踏み出す勇気など、視聴後に「良い作品を見た」と噛み締めたくなるほどの青春を堪能できる。
中でも「サマーウォーズ」は特にわかりやすい。陣内家という家族の中で描かれる愛はもちろん、主人公の健二とヒロインである夏希は作中で明確なカップルとして描かれている。ラブマシーンの暴走という大変な事態を乗り越え、主人公と美人の先輩が恋人になる。誰もがその展開に納得できるほどの、まごうことなきハッピーエンドを迎える。
また「おおかみこどもの雨と雪」では、雨と雪の母である花とおおかみ男の恋が成就し、短いながらに幸せな家族の時間を過ごしていた。「時をかける少女」でも、真琴と千昭が両想いである関係がはっきりと描かれている。
細田守作品を求める観客は、こうした恋愛・青春模様やはっきりと描かれた幸せな家族描写が好きなのだろう。金曜ロードショーで放送されていれば、ついついチャンネルを合わせてしまう。という人も多いはずだ。
だが、「竜とそばかすの姫」ではこうした描写が一気に削られた。主人公の鈴は母親を亡くして以来、父親とうまくいっておらず、顔を合わせて話すことはほとんどない。恋愛をとっても、幼なじみ男子への片思いを募らせていたはずなのに、実際に心を通わせていくのは別の年下男子だった。それも、恋愛感情があるのかどうか明確には描かれておらず、最後までどっちつかずではっきりしない。
細田守監督自身も、視聴者に求められ続けてきたTHE“細田守像”をやることに飽きたのかもしれない。新しい表現に挑戦してみたいと思うのはクリエイターなら自然な話だろう。しかし、あくまで、細田守という監督の作品で見たいのはときめくような青春や思わず涙してしまうような家族愛であって、想像の余地を残した終わり方の作品ではなかったのだと感じる。
ましてや、「果てしなきスカーレット」では、主人公・スカーレットの叔父が復讐の対象という完全なる“敵”として描かれる。細田守らしさに魅力を感じていた人々にとって、すでに求めている映画体験を得られる作品ではなくなってしまったといえるだろう。



















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