現・最高裁は、過去にはバイデン政権が導入しようとした「学生ローンの返済免除措置」などを、同じ原則を理由に違法だとして葬り去ったことがある。察するに「法の番人」である最高裁としては、二大政党の片方に肩入れしているように見られることは避けたいのである。特にロバーツ長官は、後世における最高裁の評価を気にしなければならない。三権分立の一角としては、そこは当然、気になるところであろう。
もう少し言えば、司法の世界における「保守」とは、いわば「条文主義」なのである。憲法や法律は、書かれている通りに解釈すべしとする。逆に「リベラル」派は、法律は社会の現実に即して柔軟に解釈すべしとする。普通の「保守対リベラル」とちょっと違うのだ。
例えば国論を二分した人工妊娠中絶問題については、建国の父たちがそんなことを知っていたはずがない。それでも合衆国憲法の精神に照らし合わせれば、中絶は女性の権利であるはず、というのがリベラル派の考え方である。これに対し、保守派は「そんなことはどこにも書いてないんだから、半世紀前の最高裁判断に瑕疵(かし)があったのだ」と考える。
ということで、現在の保守派多数の最高裁は、IEEPA関税もなるべく条文を厳密に解釈しようとしているようである。
もしIEEPA関税が法律違反となったらどうなるのか?
ところが現実問題として、IEEPA関税が法律違反ということになれば、その衝撃は計り知れないものになろう。文字通りトランプ政権の将来を左右する事態と言える。
仮に違法判決が出れば、今までの関税収入を返還しなければならなくなるだろう。今年の関税収入の総額は、現時点で2000億ドル程度(30兆円)とみられるが、これだけの金額を返還することになれば、手続き上の混乱もさることながら、場合によっては金融市場が混乱しかねない。米国債が暴落して、ドル金利が上昇する事態も考えられる。もちろん最高裁としても、「お前たちが金融危機の引き金を引いた」とは言われたくないので、どこか現実的な落としどころを用意するとは思うが、今後の判決は見通しがたくなっている。
面白いのがトランプ大統領の反応である。まさか最高裁に裏切られるとは思っていなかったのであろう。関税の意義を国民に訴えるために、関税収入を元に「国民1人当たり2000ドルを給付する」というアイデアをぶち上げている。日本円にすれば1人当たり30万円だ。「1人当たり2万円の給付金」という案が急にみすぼらしく思えてくる。



















無料会員登録はこちら
ログインはこちら