「この給料泥棒が!」部下を罵倒し続けた38歳パワハラ上司が"社会的に"抹殺された恐怖の復讐劇 『子供部屋同盟』1章①

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──会社員ですか、それは素晴らしい。毎朝定時に出社して、ときには残業して終電帰りになるあなたを、わたくしは心からリスペクトいたします。しかしながらL38番さん、あなたは今の会社に就職するとき、履歴書に本当の動機を記しましたか? 生命を賭してでもその会社に就職したいという魂が震えるほどの強い動機はありましたか? もしあなたが複数の企業に応募していたならば、もうその時点でそれぞれの志望動機には虚構がまじっていることになりますね。我々は嘘ではなく、本当の動機が欲しい。小学生の作文を思い出してください。小学生の作文には、その文章が稚拙であったとしても、ある種の熱量とある種の純粋さが宿っていますね。我々はそのようなレポートを好みます。

──分かりました。では小学生の作文を目指して、レポートを作成してみます。

──はい、楽しみにしています。レポート提出時に、復讐レベルも選択しておいてください。レベルは五段階あります。

D上履きに画鋲を入れる C懲らしめる Bすごく懲らしめる A社会的に殺す S殺す

※補足 Dは相手の履物にこっそり画鋲を入れます。相手の足裏には、ちくっとした痛みが走ることでしょう。 Cは優しさを持って懲罰を与えます。 Bは悪意を持って懲罰を与えます。 Aは社会的制裁を与えます。社会から速やかにおさらばしてもらいます。 Sはその言葉の持つ意味通り、ぶっ殺してこの世からおさらばしてもらいます。

──それではレポートを楽しみにしております。

五つの選択肢

万次郎氏と通信を終え、未だ画面に残る五つの選択肢を眺めつつ、太一は放心する。彼とのやり取りは、まるで現実感を伴わない。そもそもダークウェブという領域も、この子供部屋同盟というサイトも、すべて虚構の産物に思えてくる。

太一は苦笑する。おそらく俺は弄ばれているのだろう。5ちゃんねるでいうところの釣りというやつだ。

太一はワードを立ち上げる。ここは一つ釣られてみようじゃないか。レポートを記すだけなら、俺にリスクはない。そして何より、俺は西野との件を、奴の悪行の数々を、どこかに吐き出したい。

西野に殺意を抱くまでの経緯を想起しながら、太一はキーボードをタイプしていく。

高橋 弘希 小説家

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たかはし ひろき / Hiroki Takahashi

小説家。青森県十和田市生まれ。2014年、『指の骨』で第46回新潮新人賞を受賞。2017年、『日曜日の人々(サンデー・ピープル)』で第39回野間文芸新人賞を受賞。2018年、『送り火』で第159回芥川賞を受賞。他の作品に『朝顔の日』『スイミングスクール』『高橋弘希の徒然日記』『音楽が鳴りやんだら』などがある。

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