在宅医が教える「人が亡くなる"直前"に起こること」。看取りのために知っておきたい眠り・老衰・救急車・ゴールデンタイムの4つの知識

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齢を重ねて体の機能がゆっくり弱っていくと、自然に食欲が落ち、飲み込む力も衰えてきます。これは「病気」ではなく、「いのちの終わりの自然なリズム」。

木の葉が色づき、やがて枝から静かに離れていくように、人間の体もまた、もっとも自然で穏やかな状態で、最期の時間に向かっているのです。

自然な状態なのに無理に点滴を入れると、体に負担をかけることがあります。体が水分を処理できずに胸水やむくみを引き起こし、息苦しさや不快感が増してしまうこともあります。

また私たちは、生きている実感として「食べる」「飲む」を重視しますが、いのちの終わりには、それらが「必要なくなる」ときが自然と訪れます。実際、老衰で亡くなられる方の多くは、眠るように穏やかな表情で最期を迎えます。

ご家族がつらさを感じるのは、最期の時間にもかかわらず「何もしてあげられない」という気持ちかもしれません。

しかし、何かをすることだけが愛情ではありません。そばにいて見守ること、手を握ること、声をかけること、静かな呼吸をともに感じること──。それだけで、最期の時間は深く満たされます。

老衰による死は、けっして「あきらめ」ではありません。長く頑張ってきた体が、ゆっくりと幕を閉じていく、誰にでも訪れる自然の営みです。

その静けさに耳を澄ましながら、最期までその人らしくあることを感じながら、ご家族も寂しさを感じながら、その人と過ごしたことを大切に思う笑顔にも包まれる、そんな素敵な老衰での最期を感じられるのは、在宅看取りの素晴らしいところなのです。

救急車は決して呼ばないこと

自宅で最期の時間を迎えることは、本人にとってもご家族にとっても一生に一度の特別な瞬間です。

主治医との間で「家で看取る覚悟」を話していても、家族同士で救急搬送しないことの確認をしていても、いざ最期が近づき患者さんに変化が起こると、「家で大丈夫なんだろうか?」という疑問が出てきてしまいます。

大切な人の最期だからこそ、混乱したり、パニックになるのは当たり前。だからこそ、「看取りが近づいたら救急車を呼ばない」というルールだけは、徹底して共有しておいていただきたいと思います。

もちろん、脳梗塞の急性期や急性硬膜化血腫、すぐに自宅での介護環境が整えられない状態での感染症など、状態によっては救急車を呼んで病院に行くことで救えるいのちもあります。

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