こうした場合、まずは不眠の原因を探ります。
痛みがあるなら、頓服の麻薬をしっかり使うことが大切です。がんの終末期や老衰の時期でも、麻薬は「眠らせるため」ではなく痛みや苦しさを取るために使われるものであり、その結果として自然な眠りに導かれることがあります。
さらに、不安感や焦燥感が強いときには、抗不安薬や睡眠薬を調整しながら使うことで、心を穏やかに整えることも可能です。
夜にしっかり眠れることで、患者さんは翌朝の表情が明るくなったり、日中の会話が増えたりします。ご家族もまた、夜間の見守りや対応に追われずにすむので、介護に対する心身の疲れが軽減されることが多いのです。
一方で、「眠ってばかりで大丈夫なんでしょうか」と、不安そうに尋ねてくるご家族もいらっしゃいます。
確かに、最期が近づくにつれて、自然と寝ている時間は長くなっていきます。これは体の機能が静かにゆるやかに終息に向かうプロセスであり、無理に起こしたり、無理に活動させることが必要なわけではありません。
自然な眠りを尊重しながらも、「不安や痛みによる不眠」はしっかりと対処するべきです。そして、眠れない夜が続くことで本人の苦しさが増したり、ご家族の介護負担が高まるような場合には、薬によるサポートを躊躇せずに行うことが、穏やかな時間を保つために必要です。
ときに持続的な点滴や、坐薬などによる鎮静薬などの導入が検討されることもあります。
それも「眠らせるため」ではなく、「安らかに今を精一杯過ごしてもらうため」の医療的な選択肢の1つです。
枯れるように静かで苦しまない
「食べられなくなって、点滴も入れずに、このまま死んでしまうのでは……」。在宅診療では、ご家族が不安そうに問いかけてくる場面は少なくありません。
「誰にでも訪れる、とても自然な状態です。今からの時間は、決して苦しみのなかでいのちが終わるわけではありません。ご家族の声や、体に触られた感覚は、きっとご本人に伝わっています。飲まない、食べないというのは今ご本人が望まれている状態。穏やかにうとうとと夢をみながら、皆さんとの幸せな時間を過ごされています」
私は、そうお答えします。



















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