前ウクライナ大使「トランプ仲介が迷走する理由」/トマホーク供与注視の裏/ロシア包囲網形成へ自立度高める欧州/高市新政権の課題は?

✎ 1〜 ✎ 199 ✎ 200 ✎ 201 ✎ 202
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

吉田 ロシア軍の春から夏にかけての大攻勢は失敗に終わった。約30万人の戦死傷者を出して、当面大規模な攻勢を掛けられなくなっているというのが現在の米軍の見方だが、なぜトランプはこうした米軍の判断と異なる発言をするのか。

トランプが本音で望んでいることとは?

松田邦紀・前ウクライナ大使(撮影:今井康一)

松田 要するに、トランプが本音で望んでいるのは、侵略者であるロシアを敗北させることではないということだ。トランプが望んでいるのは、戦闘終結により、ウクライナ支援の負担を軽減し、ロシアとのビジネスを広げることではないか。ウクライナともビジネスをしたいということだ。

さらに言えば、結局のところ、トランプとしては、プーチン・ロシアが大国の一角として残るほうが、アメリカが主導する世界のマネジメントにはプラスと思っているのではないか。プーチンとの間で美味しいビジネスをしたいという思惑があるのではないか。

吉田 アラスカ会談直前にロシアとの交渉を担当するウィットコフ中東担当特使が、事前に会談したプーチン氏の発言を誤解して、停戦に前向きとトランプ氏に伝えた。しかし、アラスカではプーチンが初めからまったく停戦に応じる素振りを見せなかった。このため、トランプが会談を早々と打ち切ったと一部で伝えられている。

松田 要するに、トランプは満を持してアラスカに乗り込んだのに、プーチンに袖にされたということだろう。その経緯があるため、今回は自分でプーチンを交渉に引っ張り出さないと戦争が終わらないという判断があったのではないか。

今回はアラスカの二の舞を避けようと、ウィットコフではなく、ルビオ国務長官にロシアの真意を確認させた結果、停戦に応じる姿勢がないことがはっきりしたということだろう。

吉田 10月17日のゼレンスキーとの会談で、トランプは非占領部分も含めた東部ドネツク州の領土正式割譲を求めたが、ゼレンスキーは拒絶した。侵略国であるロシアに領土拡大を許すことをめぐり、両大統領の間では相当きびしいやり取りがあったようだ。

松田 最終的に、現時点での両軍の接触ラインでの停戦のみをブダペストでの協議のテーマにすることでトランプとゼレンスキーは了解した。要するに、この時点でトランプとプーチンの間で早くも思惑のズレが生じていたといえるのではないか。

吉田 このトランプ・ゼレンスキー会談で、プーチンが従来主張しているウクライナ紛争の根本的原因、つまりウクライナの中立化、北大西洋条約機構(NATO)への非加盟の確約について議論したか否かは不明だ。

しかしその後、モスクワでラブロフ外相が根本的原因の排除を求める立場に変更がないと言明したことで、トランプとプーチンの立場の隔たりが依然大きいことが明確になった。

次ページ欧州は対ロシア防衛の準備に本気だ
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事