JR東日本が重視する「ステークホルダー」は誰だ? 運賃改定、従業員給与、株式配当を分析してみると…
2026年度だけ減少するもののその後は増加に転じ、2023年度の119,701百万人/キロを上回る予測となっている。筆者は、JR東日本に対して「運賃値上げの理由を乗客の減少としながらも、旅客輸送量が増加するという予測は矛盾しているのではないか」と問い合わせたところ「2026~2028年度の平年度の輸送量はコロナ禍前の2019年度135,385百万人/キロ水準には戻らないと想定」しており、「物価高や人口減少等、厳しい経営環境が継続する中で、人件費を含めた労働条件の向上等に必要な資金を長期的・安定的に確保することが課題となっている」という回答が得られた。
とはいえ、JR東日本の業績は、コロナ禍によって2020年度と2021年度は営業赤字となったものの、2022年度からは黒字決算となっており、2024年度営業利益3767億円はコロナ前の2019年度の営業利益3808億円に迫る数字だ。業績はすでにコロナ前の水準に戻っているといっても差し支えない。
また、JR東日本が国土交通省に提出した「収入原価総括表」を見ると、現行と申請で「その他人件費、経費等」の項目が同額となっており、「昨今の物価高や人材の確保といった経営環境の変化」という説明とは矛盾がある表記も見受けられた。
ある関係者は「今回の運賃値上げは、JR東日本が主導的な役割を果たして、制度改正から国土交通省に働きかけを行って実施したものだ」と証言する。それを裏付けるように、JR東日本が2025年4月10日に決算発表に合わせて公表した経営戦略資料では、運賃改定に向けて総括原価方式の見直しに向けて継続的な働きかけを行ってきた旨が記載されていた。
年収増加も現場では負担増?
続いて、従業員との関係はどうか。
鉄道事業に対しては、都市部も含めた列車の減便やローカル線の廃止の推進などで徹底したコスト削減と、業績が好調の中での運賃値上げにより徹底した収益力の向上を目指すJR東日本であるが、近年の有価証券報告書によると平均年間給与は増加傾向にあるものの、現場では業務の負担が増えているという。
公聴会に公述人として参加した同社社員は筆者の取材に対して、「経営陣ではなく従業員や、その先にいる利用者に無理を強いるような『経営改善策』が横行していることが問題」だと話す。
同社の問題は、「利用状況を緻密に分析しないまま列車本数や車両数を削減したり、複数名での対応が必要な列車に乗務員を配置しなかったり」など、現場に大きな負担を強いる経営改善策が多い実態があるという。そして、「働き方改革にしても、社内外に口当たりのよいことを言っている割には、中身が伴っていない」と述べた。
また、「昨今、鉄道輸送の安全を揺るがす事象が相次いでいるほか、有名週刊誌で取り上げられるほどの不祥事を起こしているにもかかわらず、軽微な処分で自らの襟を正すことができない人物を経営トップに据えていることに対する厳しい声など、現場の社員として利用者のさまざまな反応を受け止めている」という。
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