韓国総選挙は与党が勝利 FTAなど貿易問題では日本に追い風

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それは、ソウル大学融合科学技術大学院長の安哲秀氏の存在だ。安院長は、世界でも数少ないコンピュータウイルス用のワクチンを開発した一人で、「韓国のビル・ゲイツ」と言われるほど、ベンチャー企業経営者として有名な人物。年齢もまだ50歳と若く、20~30歳代の無党派の若者から絶大な支持を得ている。昨年に行われたソウル市長選挙でも出馬が期待され、出馬はしなかったものの、彼が推す候補者が当選した経緯もある。

安氏はこれまで政界進出への意思を明らかにしたことはないが、総選挙後に「(大統領選に)出馬を決めた」との報道がなされ、政界に大きな衝撃を与えている。仮に安氏が出馬した場合、決定的な候補者がいない野党側にとっては、「彼と行動をともにする意思を示すかどうか、民主党は悩むことになるだろう」(西野氏)。野党側も「(安氏とともに)戦うしかないのではないか」(小針氏)との見方も強く、安氏の立場やその表明時期が野党の大統領選戦略に大きな影響を及ぼすことは間違いない。 


■安哲秀氏

 また、西野氏は、今回の総選挙で勢力を広げた進歩党の存在も変数になると言う。進歩党は、いわゆる左翼的な政策を志向する政党であり、今回獲得した13議席は民主党にとっても存在感が気になるところ。「非セヌリ候補一本化のカギを握りそう」と西野氏は言う。

大統領選は6月ごろから本格化するのが通例だが、今回は特に不透明な変数が多い。また、政界において日韓間には議員連盟をはじめ強い人的パイプがあったが、与野党とともに世代交代が韓国で進み、「お互い誰が誰だかわからないということもあり、これが不必要な摩擦を生んでいる」(日本の自民党関係者)。民主党首脳、また安哲秀氏も日本ではよく知られていない人物でもあり、隣国の政治動向に日本はより注意を払わなければいけないだろう。

安哲秀氏写真:Jinho Jung CC BY-SA

 

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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