社債市場の透明化問題、新制度でもなお課題 取引情報公表制度の浸透には時間

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この制度の導入では、社債発行体などは流通市場での取引実態をより正確に把握でき、新発債の条件決定の参考にすることが可能になる。それにより、新発債と既発債の水準のかい離が縮まるとの期待が出ている。また、新制度の報告者の中にほふりが名を連ねていることで、公表データの信頼性も高まる、との指摘もある。

ある大手機関投資家は「既発債の実勢価格が分かれば、保有しているポートフォリオを時価評価するのに役立つ」と新制度を歓迎する。社債を発行する企業側には「流通市場での実勢が明るみになるので、新発債のスプレッドが既発債とかい離すれば、自社の社債の評判が悪くなる」(リース会社財務担当者)との懸念があり、新制度によって流通市場の実勢を無視した新発債の条件決定を抑制する効果があれば、発行体にとってもプラスとなる。

市場には冷ややかな見方

しかし、新制度への好意的な見方はまだ限定的で、市場参加者には冷ややな反応が目立つ。

日証協が公表するのは額面1億円以上の取引で、2つ以上の債券格付けか発行体格付けを付与されたダブルA格以上の銘柄に限定される。公表の対象になる銘柄は毎月見直され、銘柄の信用度を示すクレジット・スプレッドが一定以上拡大した銘柄については、市場の混乱を避けるために公表を一時的に停止するという。

ただ、新制度の公表対象になるダブルA格以上は国内社債の全銘柄の約45%を占め、流動性が高いため、取引の実勢は新制度がなくてもつかみやすいという面がある。

大手投資家などからは、「実勢を知りたいのはもっと格付けが低い銘柄。新しい制度は意味がない」と手厳しい指摘があるほか、「なぜこちらの手口を公にしなければいけないのか。売買契約を明らかにしても流動性が高まるとは思えない。売買契約がある程度見えているCDSでも流動性が上がらない現状を見れば明らかだ」との声も聞こえてくる。

さらに、新制度によって、逆に新発債の価格に対する信頼性が低下し、販売不振につながるのではないか、という懸念もある。引受証券会社が新発債の売れ残りが生じた場合にひそかに特定の投資家へ値引き販売する、いわゆる「レス販」の動きがその理由だ。

新制度では、社債発行から約定単価などが日証協に報告されるまでの間に最長1か月のタイムラグがある。この期間内であれば、ひそかに行われる「レス販」も公表の網の目をかいぐぐることができる。

これについては、「新発債を引き受けた証券会社ができるだけ早くレス販しようとするインセンティブが働きかねない」(大手機関投資家)と警戒する声が上がっている。レス販の時期が早まると、新発債の発行価格がすぐに値崩れする事態を誘発しかねず、健全な相場形成に支障をきたすとの見方だ。

新制度が社債取引の透明化の大きな一歩になるとしても、市場の反応に応える改善策がなければ十分な浸透は難しい。日証協では「新しい制度について年1回ほどの定期的な検証を行う」(公社債・金融商品部)方針だが、検証の協議体などの細目はまだ決まっていない、としている。

 

(福井康典 編集:北松克朗)

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