「野球に子どもたちが興味を持たなくなる」は本当か? WBCネトフリ論争を"再燃"させる人たちの《残念すぎる思考》

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「WBCを無料の地上波テレビで」にことさらこだわるのは、その昔、読売ジャイアンツのホームゲームを日本テレビが独占中継していた記憶によるものだと思われる。スポーツマスコミには当時を知る中堅以上の記者が多く、野球に思い入れがあり、その人気を地上波が支えたことが忘れられないのではないだろうか。

そんなことを書くのは、私が野球に興味のない子どもで、野球のせいで毎週楽しみにしているアニメの放送が遅くなったり、見られなくなったりした記憶を抱えているからだ。どうしてこんなに野球に振り回されないといけないのかと、子どもながら腹を立てていた。

だが、インターネット配信という選択肢が出てきた今、終了時間が見えない競技の中継ほど、タイムテーブルに沿って進行するテレビ放送に向かない形態はない。

アメリカではすでに、さまざまなプロスポーツの試合がネット配信に移行している。日本でも、サッカーのJリーグは2017年からDAZNによる配信が行われるようになった。開始当初は議論になったが、時間の経過とともに“収まる形”に収まった。WBCだけとやかく言うのは、一部のスポーツマスコミと球界関係者の野球への偏った思い入れでしかない。

野球を「次世代につなげる」ために必要なこと

8月28日配信の記事「『ネトフリに憧れるのはやめましょう』 WBCを逃した日本のテレビ業界が今こそやるべき《過去との決別》」で示したように、2023年のWBC決勝戦の視聴者は65歳以上の高齢者が中心。普段のテレビで大谷翔平の活躍を楽しみに見てきたお年寄りが、世界を相手に大活躍する大谷に拍手喝采したイベントがWBCだったのだ。

高齢者のコンテンツを高齢者中心のメディアで見せることが、どれだけ次世代の野球人気につながるというのか。

例えば、9月7日夜に阪神タイガースのセ・リーグ優勝が決まったが、その試合は地上波テレビで放送していなかった。4年に1度のWBCを地上波で見せるより、こうした日本のプロ野球の注目試合を少しでも多くの人が見られるようにしたほうが、野球人気の拡大にはよほど重要ではないか。

2026年のWBCでは、配信サービスになじみのなかった高齢者が、仕方なく孫に頼んで月額890円でネットフリックスに契約して、大谷を応援し続けるのだろう。一方で、子どもたちは親がとっくに加入しているネットフリックスでライブ配信としてWBCに接する。前回はテレビ中継だったから見なかったが、自分がなじんだネットフリックスで初めてWBCを見る子どももいるだろうし、その中から20年後の野球界のスターが出てくるかもしれない。

ネットフリックスのWBC独占配信は、そんなふうに人々が放送から配信にシフトする時代の1つの現象にすぎない。そのことにあまり感情的になっても仕方ないと思う。自分が見たいものを、自分が使いやすいプラットフォームで見ればいい。野球と地上波テレビの蜜月はもうとっくに終わっているのだ。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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