教員のブラック勤務、交際相手・配偶者はどう見ている?

教員の働き方が「ブラック勤務」と指摘されるようになって久しい。

文部科学省や各教育委員会は学校現場の働き方改革に取り組み、長時間労働の一因になっている部活動の地域移行などを進めているが、まだ大きな改善には至っていない。そして、現場の教員は変わらない働き方に疑問を感じつつ、どれだけ多忙であっても目の前の児童・生徒への対応を優先している場合がほとんどではないか。

しかし、教員も普通の人間だ。当然プライベートはあるし、生活や時間を共にする交際相手や配偶者もいる。そのパートナーたちは「ブラック勤務」に耐える教員の姿をどのように感じているのだろうか。交際や結婚生活に支障はないのだろうか。異業種に勤務する2組の教員パートナーを取材した。

5時半起床、20時過ぎまで勤務「残業代が出ないのは信じられない」

まず、公立中学校勤務の20代女性教員と1年半交際している電子機器メーカー社員の小出武さん(仮名、24歳)に話を聞いた。

「私の会社はスーパーフレックス制を導入しており、自ら始業・終業時刻を決めることができるので、私は8時半始業、17時半終業という形を取っています。しかし、時間がずれても5時から22時までの間に7時間45分働けばよい仕組みなので、遅刻の概念がありません。あとリモートワークが多いことも教員とは異なりますね」(小出さん)

交際当初にまず驚いたのは、彼女の起床時間があまりにも早いことだった。

「現在は同棲していますが、当初は金曜の夜に彼女が私の家に来て、週末を一緒に過ごして、私の家からお互い出勤していく形で交際していました。でも私が月曜の朝に目覚めた時には、いつも彼女の姿がないのです。彼女は5時半には起きて出勤していました」(小出さん)

彼女の勤務時間は8時20分始業、17時50分終業なので、本来は小出さんの勤務時間とほぼ変わらない。なぜそんなに朝が早いかというと、通勤に1時間以上かかるだけでなく、7時過ぎには学校に到着し、授業準備を行わないと業務が回らないからだった。

「よくよく話を聞くと、朝早いだけでなく『金曜は少し早く退勤しているけど、いつもは20時頃まで働いている。21時を過ぎることもたまにある』というのです。しかも、『教員は残業代が出ない』と聞いた時は信じられませんでした。労働基準法に引っかからないんですかね?」(小出さん)

公立学校の教員は、給特法により教職調整額が支払われる代わりに、労働基準法の一部が適用除外になっている。この教職調整額が、今年の給特法の改正で給料月額4%から10%に段階的に引き上げられることになったが、今後も法定労働時間を超えて働いたとしても民間企業のようには残業代は支給されない。

運動部の顧問だったら「交際は終わっていた」

さらに小出さんが衝撃を受けたのは、彼女から「まだ私は恵まれている方だ」と聞かされたことだ。

「彼女は吹奏楽部の顧問をしているのですが、運動部の顧問だったら土日も出勤することがほとんどだというのです。もし土日すら会えない状況だったら、交際はうまくいかずに終わっていたと思います」(小出さん)

幸いにも交際は順調に続いており、近々籍を入れる予定だが、小出さんが最も心配しているのは彼女の健康だ。

「週末に彼女が体調を崩し、ダウンしてしまったことがありました。月曜の朝になってもぐったりしていて、さすがにその日は学校を休んでいました。私はリモートワークの日で家にいたのですが、彼女は午後になって体調が少し戻った途端に『明日の授業のプリントを作らないと間に合わないから』と仕事を始めたんです。私は休みの日には絶対に仕事をしないので、びっくりしました」(小出さん)

教員の異常な働き方に戸惑うことは多いが、それでも小出さんは彼女を応援したいという。

「彼女が生徒思いで、仕事に真摯に向き合っている姿を尊敬するし、そういう人柄が大好きです。でも、もう少し自分の体のことを考えてほしい」(小出さん)

非行や自傷は日常茶飯事、荒れた学校に勤務する妻

教員をパートナーに持つ別の方にも話を聞いた。公立高校勤務の30代女性教員と結婚7年目を迎えた金融関連企業に勤める山中雄一さん(仮名、32歳)だ。

「妻は養護教諭です。産休・育休から職場復帰したばかりで、9時出勤、16時退勤の時短勤務をしています。現在は時短ですし、生徒が落ち着いた高校に勤務しているのでとくに問題ないのですが、以前はかなり荒れた学校で生活指導を担当していて、ポジティブな話を聞くことはありませんでした。妻のメンタルがすごく心配でした」(山中さん)

以前の学校では保健室登校の生徒が多く、養護教諭の妻は多忙を極めていたという。

「東横キッズが何人かいる学校で、非行や自傷は日常茶飯事。保健室に出入りする生徒は精神的に不安定な子が多く、妻はかなり大変だったようです。生徒の喫煙事案は週1回くらいの頻度で発生していたので、妻の帰宅が遅い時はまた生徒の喫煙だろうなと思って、一緒に食事をするのをあきらめて外に飲みに行っていました」(山中さん)

それに加え、当時の妻は演劇部の顧問、サッカー部の副顧問を担当しており、試合や大会のある土日に出勤することも少なくなかった。

「私はずっとスポーツをやってきた体育会系なので、部活に関しては大変だろうけど、仕方ないかなと思っていました。でも、やっぱりおかしいのは、残業代やきちんとした休日出勤手当が出ないことです。もらえても試合会場までの移動費程度の金額ですから、ただ働き同然です。妻は『こんなに働いているのに、何でお金がもらえないのかな』といつも愚痴っていました」(山中さん)

「普通の会社じゃありえない」、教員をうらやましいと思ったことも

しかし、山中さんは教員をうらやましいと思ったことが2つあるという。

「忙しくない時は休みが取りやすいのは、うらやましいですね。教員は1時間単位で休暇を当日申請できるじゃないですか。『今日の午後は授業がないから、3時間休みを取って早めに帰ります』みたいなことができる。私の会社は福利厚生が充実していますが、さすがにそんな休み方はできません」(山中さん)

もう1つは、産休・育休中の妻の給与待遇だ。

「全く勤務していないのに働いている形になっていて、自動的に昇格・昇給してボーナスまでしっかりもらっていたことです。公務員と民間企業の違いなんでしょうけど、こんなこと普通の会社じゃありえない。子どもがいるので家計的にはありがたいのですが……」(山中さん)

だが、山中さん自身は「教員をやりたいとは思わない」という。

「うらやましいと思ったのは、それだけです。生徒だけでなく、保護者にも気を遣わなきゃいけないし、大変さと給料が全く見合っていません。妻は今後も教員を続けていくようですが、私には務まりそうにありません」(山中さん)

取材から見えてきたのは、異業種と比較して明らかな長時間労働、よくも悪くも特殊な勤務形態、そして肉体的、精神的に追い込まれる教員に「もう少し自分の体のことを考えてほしい」(小出さん)、「ポジティブな話がなく、メンタルが心配」(山中さん)と心を痛めるパートナーの姿だった。

そして気になったのは、「もし土日すら会えない状況だったら、交際はうまくいかずに終わっていたと思います」(小出さん)という言葉だ。確かに、平日は早朝から夜遅くまで働き詰めで、土日も休めない相手と関係性を深めるのは困難だ。教員の長時間労働は心身への影響だけでなく、他者との出会いや生き方まで狭めていないだろうか。

文科省が2022年に実施した「教員勤務実態調査(令和4年度)の集計(確定値)」では、すべての職種で平日・土日共に在校等時間が減少した。また今年、給特法の改正案が可決され、同時に働き方改革の計画づくりや報告、進捗などを確認することが教育委員会と学校に義務づけられた。

それだけで改革が進み、先生たちの働く環境が改善するのかという懸念はある。しかし、民間企業ではリモートワークやフレックスタイム制、副業など多様な働き方が認められるようになり、ワークライフバランスを重視する人が増えている。

保護者や地域との関係から「教員にプライベートはない」などといわれるが、もうこれ以上、学校現場から離脱する先生を増やさないためにも、働き方改革は待ったなしの状況だ。

(注記のない写真:buritora / PIXTA)