まだ素直に喜べない「インド新幹線」の前途多難 「E10系」導入で合意したが、欧州企業が信号受注
首脳会談の翌30日、モディ首相は石破首相と共に東北新幹線E5系のグランクラスに乗車し、仙台に向かった。東京駅では、現在技能講習中のインド高速鉄道公社の研修員がホームで出迎え、一部区間では石破首相と共に運転台にも添乗した。さらに、大宮駅ではE10系の基となる試験車両「ALFA-X」を入線させ、窓越しに見学できるという演出がなされた。

過密スケジュールの中での苦肉の策と思われるが、車内ではJR東日本の深沢祐二会長がモディ首相に対し、同車両の説明を行った。このような異例とも言える待遇は、モディ首相に実際の新幹線を披露するため、日本側が背水の陣を敷いたとも言える。
ただ、これで万事解決ではない。本当の勝負はこれからだ。現場レベルで、一つ一つの課題に対し、日本側が粘り強い説明と説得を続け、インド側を納得させなければならない。すでに契約されてしまったパッケージを白紙に戻すことができるのか、注目される。
新幹線は「万能」ではない
2015年12月に安倍元首相とモディ首相の首脳会談で建設が決まったインド高速鉄道は、もともと円借款プロジェクトとして想定されていたインドネシアのジャカルタ―バンドン高速鉄道が同年9月、中国に逆転受注された直後ということもあり、大いに注目された。これからはインドの時代だと、インド推しの声がどこからともなく沸き上がった。政府も産業界に発破をかけた。

しかし、それから10年経った今も具体的な開業の見通しは立たず、仕様すら決まらなかった。ビジネスの世界では、完全に気が済むまで交渉するという国民性もあり、インドは中国以上に手ごわい相手と言われるが、あまりにも甘く見ていたのではないだろうか。日本側がもっと早く本腰を入れて交渉に当たっていれば、今ごろは別の未来があったかもしれない。
そして、新幹線万能論への陶酔はいい加減、やめにするべきだ。ヨーロッパ式の高速鉄道も、中国式の高速鉄道も、世界では新幹線と同じ土俵にいる。高密度、稠密ダイヤでの運行を実現する新幹線システムを果たして相手国が本当に必要としているのか、まずはそこを見極めたうえで売り込まなければ、この不幸は再び繰り返されることになる。

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