独裁者は、権力の座にとどまるために、絶え間ない恐怖に満ちた環境を生み出す。その恐怖が批判者たちを黙らせる。彼らは尻込みし、本心を語らない。
だが、ほとんどの人が口をつぐむため、独裁者は人々――側近たちさえも――が本当は何を考えているのかをけっして知りえない。
この人物は心の底から忠実なのか、それとも忠実なふりをしているだけなのか? この人間は政権のイデオロギーを本当に支持しているのか、それとも万事は、独裁者を裏切ることができるまで時間稼ぎをするための芝居なのか? 独裁者には知りようがない。
独裁者は国内一の権力を持っていても、部下が真実を語ってくれる保証はない。だとすれば、独裁者が下す決定はすべて、恐怖という霧のフィルターがかかった情報に基づいていることになる。
このような状況がたいていの人には馴染みのないものに思えるのは、私たちは自分の命が唐突に絶たれたり、家族が拷問されたりする事態を招く心配なく、本心を語れるからだ。
会社員は、上司に不愉快な真実を告げれば、昇進しにくくなるかもしれない。解雇されることさえありうる。
だが、もし真実を語れば投獄か死刑につながるのなら、誰が独裁者に噓をつかずにいるだろうか? 独裁国家では、真実は致命的になりかねないのだ。
ほとんどの独裁者は愚かではないから、部下からの報告で全容を把握するのが不可能であることを承知している。そのような状況下では、独裁者が周囲の人間について、最悪の可能性を想定しておくのは理に適っている。
必要となる後援者が少人数ですむ場合
だが、内なる敵に対してすべての独裁者が同じ困難を抱えているわけではない。なぜなら、指導者が頼みとする連合はじつにさまざまだからだ。
政治学者のブルース・ブエノ・デ・メスキータとアラスター・スミスは著書『独裁者のためのハンドブック』(四本健二/浅野宜之訳、亜紀書房、2013年)で以下のように書いている〔訳注 引用は原書での引用部分に基づく本書(『独裁者の倒し方』)の訳者による訳〕。
そうした状況下では、独裁者に対するエリートの「忠誠心」の値段は低い。供給がたっぷりあるからだ。
政権が国民から盗み取るお金から、内務大臣がより大きな分け前を要求したら、大臣は昇給を勝ち取ることはない。大臣になる「資格」も、その仕事をこなす気もある他の大勢のうちの1人に取って代わられるだろう。


















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