イーロン・マスクの130日(上)強引なやり方で政権内で孤立、最後はトランプにはしごを外される
政府内でもマスク氏に対する不満が高まっていった。トランプ大統領の支持を得てマスク氏は閣僚に向かって長い演説をするなど自由奔放(あるいは勝手気まま)な行動を取っていた。閣僚たちは、当初は黙って聞いていたが、DOGEの強引な手法に対して不満が爆発した。
3月6日の閣議がターニングポイントに
最初は、3月6日の閣議の席でのマスク氏とルビオ国務長官との言い争いである(『New York Times』2025年3月7日、「Inside the Explosive Meeting Where Trump Officials Clashed With Trump」)。国務省での職員解雇が進まないことから、マスク氏はルビオ長官に「あなたは誰も解雇していないではないか」と詰め寄った。これに対して、DOGEが一方的に国務省管轄のアメリカ国際開発庁を閉鎖したことに激怒していたルビオ長官は「1500人の早期退職があった」「解雇したと見せかけるために、すでに退職した職員を復職させろとでも言うのか」と詰め寄った。
両者の激しい言い争いを受け、トランプ大統領は「ルビオ長官は良い仕事をしている。イーロンに職員を解雇する権限はない。それは長官の仕事だ。DOGEの仕事はアドバイザー業務であって、実際の仕事をすることではない」と、ルビオ長官の肩を持ち、DOGEの権限を制限した。この時、トランプ大統領はマスク氏のはしごを外したのである。同記事は「この会議はトランプ政権の潜在的なターニング・ポイントであった」と指摘している。
同じ閣議で連邦管制官の解雇と運航の安全性を巡ってマスク氏はダフィー運輸長官とやり合っている。「相互関税」を巡ってナバロ通商担当上級顧問とも対立し、ナバロ氏を「本当に低能だ」と挑発的な言葉で批判した。こうしてマスク氏は閣内で孤立していく。
そして決定的な対立が起こった。マスク氏とベッセント財務長官が4月18日に内国歳入庁の長官代行人事を巡り、取っ組み合わんばかりの状況になった(『New York Times』2025年4月18日、「Head of I.R.S. is Ousted in Treasury’s Power Struggle with Elon Musk」)。
ベッセント長官は「予算削減で過剰な約束をし、目標に達していない」とマスク氏を批判。これに対してマスク氏はベッセント長官を「ソロスの代理人で、ヘッジファンドで失敗した」と評した。ベッセント長官が「Fuck you」と極めて汚い言葉を投げかけ、マスク氏が「もう一度、大声で言ってみろ」と言い返した。結局、長官代行人事でトランプ大統領はベッセント長官を支持した。ルビオ長官との争いの時と同じ結果である。
トランプ大統領との関係では『The Telegraph』が興味深い指摘をしている(2025年6月5日、「Elon Musk wanted to stay in White House but was rejected」)。マスク氏は特別政府職員としての契約が切れたら社長業に戻ると発言してきたが、本音は違っていたようだ。同記事は、マスク氏は契約の延長を望んだが、トランプ大統領に拒否されたと書いている。これが事実なら、退任後にマスク氏が激しいトランプ批判を展開しても不思議ではない。マスク氏にはトランプ大統領に裏切られたという思いがあるのかもしれない。
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