イーロン・マスクの130日(上)強引なやり方で政権内で孤立、最後はトランプにはしごを外される

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トランプ大統領は再選の最大の功労者であるマスク氏に行政改革を託した。トランプ大統領はDOGEの狙いを「連邦政府の能力と効率性を取り戻すことだ」と説明している。もうひとつの狙いは、「影の政府(deep state)」の解体だ。「影の政府」を支えるリベラル派の連邦職員を解雇することで、政府改革ができると主張した。さらに予算と人員の削減は、保守派が主張する「小さな政府」の実現にも結び付く。

当初は大統領候補者であった起業家のラマスワミー氏と共同責任者だったが、2人は手法を巡り対立した。ラマスワミー氏はルールに従い、裁判所や議会を通して行政改革を行うことを主張したが、マスク氏はより直接的な手段を用いることを主張した。ツイッター買収後に行った社員の大量解雇の再現である。シリコンバレーには「スピード優先で、失敗を恐れず進め(moving fast and breaking shit)」という言葉がある。ラマスワミー氏が権力闘争に敗れ責任者の地位を辞退したため、マスク氏はその言葉通りに官僚機構の改革を進めた。

民間流の手法が不評、マスクが政府の「負債」に

ただ、現場を知らない少数の若いスタッフを集めたDOGEには、マスク氏の「2兆ドルの予算削減」という目標は過大だった。例えばエネルギー省の核兵器の在庫管理をする職員を解雇し、慌てて再雇用するということがあった。多くの部門で強引に経費が削減され、仕事に必要な備品の購入ができないという事態も起こった。

公共放送『NPR』は「連邦政府で働いた経験もなく、政府機関がどんな仕事をしているのか知らない若いスタッフの小さなグループで会議が行われた」と、内情を説明している(2025年5月20日、「DOGE has tried to embed beyond the executive branch. Some targets have pushed back」)。

行政上の権限を越える命令を出し、担当省庁から反発を受け、一部の政府機関は公然とDOGEの命令を拒否した。また、解雇された職員は違法解雇であると相次いで訴訟を起こし、裁判でDOGEは敗北し、職員の復職が命じられた。マスク氏がツイッター社で行った企業改革の手法は通用しなかった。オーナー社長は1日で1つの部門を廃止できるが、公的な組織では法的な手続きを踏む必要があった。

マスク流の強引な手法は世論の反発を招いた。3月に発表されたクイニピアック大学の世論調査では、「DOGEが経済にダメージを与えている」という回答が54%、「マスク氏のやり方に反対」が60%であった。4月22日に発表されたワシントン・ポストとABCの世論調査では、マスク支持が35%、不支持が57%であった。マスク氏は、政府と共和党にとって「政治的な負債」になりつつあった。

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