アンダーソンは自著で、需要の伸びに関して大胆な予測も行っている。オンライン・チャネルが、需要曲線を変化させることになると主張するのだ。アンダーソンの見解によると、消費者は、大衆向けにつくられた商品よりも、個人の興味に合ったニッチ商品を高く評価するので、ネット小売業により後者が見つけやすくなると、消費者の購買はそれに応じて変化するようになる。
言い換えれば、消費は曲線のヘッド(販売数の多いところ)からテール(しっぽの部分)にやがて移行する。つまり、知られていなかった商品を入手できるようになるので、テールは着実に長くなっていくだけではなく、消費者が自分の好みに合った商品を見つけられるようになるので、テールは太くなっていく。最終的に、比較的少数のヒット作品に代わって、無名の商品が市場で大きなシェアを占めるようになる。
ロングテールvs.ブロックバスター
このような予測は、オンライン企業の幹部の耳には心地よく聞こえるかもしれないが、アンダーソンが述べた変化は、ブロックバスター戦略に頼るコンテンツ制作者には厄介な事態をもたらすことになる。ニッチよりも、ヒットに勝負をかける人にとっては幸いなことに、市場の発展に関する実際のデータは、アンダーソンの予測とはかけ離れたストーリーを語る。限られた陳列スペースしかないオフラインの小売店から、幅広い品揃えのオンライン・チャネルへと需要が移っても、テールの販売量分布は太くならない。それどころか、時間の経過とともに消費者がネットで買い物する量が増えると、テールは長くなるのだが、明らかに細くなるのだ。しかも、ベストセラー商品の重要性が低下していくということはない。むしろ、増すのだ。
音楽業界を例に取ろう。ニールセンが集計した再生音楽の販売情報によると、2011年に音楽配信でダウンロードされたシングルトラックは800万曲あり(大多数がiTunesストアで、0.99ドルか1.29ドルで購入された)、そのうち94%にあたる750万曲は100ダウンロード未満で、32%、つまりおよそ3分の1がなんと1回しかダウンロードされなかった(中にはアーティスト本人がちょっとテクノロジーを試そうとして購入したり、その母親がわが子のためにと思って購入したものもあるかもしれない)。
しかも、その傾向はアンダーソンの予測とは正反対だ。レコード音楽のテールは、時間とともにますます細くなってきている。この調査の2年前、2009年には640万曲のシングルトラックがダウンロードされ、そのうち93%が100ダウンロード未満で、27%が1ダウンロードだった。
さらにその2年前、2007年には、390万曲のうち、91パーセントが100ダウンロード未満で、24%が1ダウンロードだった。
事実は明らかだ。デジタル・ダウンロード市場が成長するにつれて、ダウンロード回数が少なくて儲けとはほど遠い曲の占める割合も、増えている。ほとんど利益をあげない曲が増える一方なのだ。これと同じくらい驚かされるのは、業界の需要曲線のヘッドで起こっていることだ。
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