「トランプ」不確実性への“適切な向き合い方”。いずれ元へ戻ると考えるのが主流だが…

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ただ、トランプ大統領の希有なキャラクターに引っ張られ、「元へ戻る」と構えているだけで本当にいいのか。このタイプの反応から抜け落ちているのは、トランプ大統領がなぜ意図的に経済合理性を攻撃しているかという視点だ。

経済合理性に基づく自由貿易やグローバル化が米国の製造業を衰退させ白人中間層の雇用を奪った。彼らの苦境と不満が「トランプ」を生み落としたのは周知の事実だ。そして彼らの大統領は、市場の経済合理性を度外視し、彼らの雇用を奪った諸外国に対して政治的に高関税の罰を科しているのだ。

経済学の教科書は「先進国の製造業が新興国に移転しても、先進国にはより付加価値や賃金の高い産業が創出される」と説いている。

実際、米国はグーグルやエヌビディアなど最新AI(人工知能)を含めたビッグテックをいくつも生み出した。2024年の国民1人当たり名目GDP(国内総生産)は世界7位だが、タックスヘイブンを除けば主要国では圧倒的首位。その実額8万5812ドルは実に日本の2.6倍にもなる(IMF〈国際通貨基金〉調べ)。

外に敵を求めるしかない

そのため本来、疲弊した中間層を支援するなら「ハイテク長者や金融部門への課税を強化して所得再分配政策を進めるべきだ」(BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト)。しかし自由至上主義と政府不信が根強い米国では大胆な所得再分配政策は採りづらく、リベラルなバイデン前政権の下でも取り組みは限定的だった。

こうなると米国政治は外に敵を求めるしかない。白人中間層はもはや経済合理性は自分たちの味方ではないと信じている。トランプ大統領の一見無茶な政策は、これらの帰結なのだ。それに気づかなければ、いくら正論をぶつけても米国の迷走を正確に予測できない。

であれば、われわれは「トランプ」とのもう1つの向き合い方を採用すべきだろう。それは、正論は維持したうえで清濁を併せのみ、今後の対処を考えることだ。

大切なのは、4年後の政権交代で消滅するかもしれないトランプ大統領特有の政策と、それ以降も続くだろう米国の中長期的変容に分けて対応を考えることである。

本記事の詳報版は、東洋経済オンライン有料版記事「図解「トランプ関税ショック」 世界同時不況はありえるか。異例の政策への向き合い方」でご覧いただけます。

詳報記事はこちら

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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