日本のTPP交渉はコメで負け、自動車で負けた 安倍首相は自国民よりアメリカを重視?

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一方で、国益を守ろうと最後まで戦っていたのが、ニュージーランドやマレーシア、チリなどの国だという。

「ニュージーランドは乳製品と医薬品で、チリは医薬品部門で大国のアメリカ相手に最後まで粘っていた」(玉木氏)

とりわけバイオ医薬品の保存データ期間を5年以下にすることを主張していたチリは、日本政府代表の甘利明経済財政担当大臣が「大筋合意の発表は整った」と楽観視して記者団に発表した後でも、粘りに粘っていた。ペルーも同じだ。そして12年の期間を主張したアメリカから、8年の期間を勝ちとっている。

「このように、小国が頑張っていた。私はこのTPPの交渉の最後は、アメリカと日本の対決にしてほしかった。なのに、甘利大臣はまるで議事進行係のようで、闘う当事者にはとうてい見えなかった」(玉木氏)

確かに甘利大臣は「大筋合意」を急ぐあまり、乳製品を巡って対立していたニュージーランドとアメリカに話し合うように「強い申し入れ」をしていたのだ。

果たして「大筋合意」はどのようなメリットを日本国民にもたらすのか。民主党政権時の試算によれば、10年間に3.2兆円という数字が出ている。しかしその前提が大きく変わった以上、もう一度計算をやり直すべきではないか。

自国民よりアメリカを重視?

「大筋合意」の衝撃は、日本の農政の構造にも大きな変化を与えそうだ。

10月6日付けの日本農業新聞の1面トップに、「『聖域』大開放」の大きな見出しが躍った。農村に地盤を持ち、来年改選を迎える自民党の参院議員からは、「これでは選挙は戦えない」との悲鳴が聞こえている。

「大筋合意」に関しては、野党は秋の臨時国会での審議を求めているが、これには与党は消極的で、11月9日から11日までの閉会中審査のみを提案している。これはゆゆしき国会軽視、日本国民軽視だと玉木氏は主張する。

「こんな重大な案件が、衆参でたった3日間の審議なんて信じられない。そもそもまだ条文すら出されていないし、内容についてもきちんとした説明がない。また安倍首相は4月に訪米した際、連邦議会上下両院で演説したが、この時にTPPをなしとげることを表明している。これはあの安保法制と全く同じ構図だ。安倍首相は自国民よりアメリカを重視しているのか」

安積 明子 ジャーナリスト

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あづみ あきこ / Akiko Azumi

兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。1994年国会議員政策担当秘書資格試験合格。参院議員の政策担当秘書として勤務の後、各媒体でコラムを執筆し、テレビ・ラジオで政治についても解説。取材の対象は自公から共産党まで幅広く、フリーランスにも開放されている金曜日午後の官房長官会見には必ず参加する。2016年に『野党共闘(泣)。』、2017年12月には『"小池"にはまって、さあ大変!「希望の党」の凋落と突然の代表辞任』(以上ワニブックスPLUS新書)を上梓。

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