子どもに多い7つの「心の病」とその「サイン」
「心の病」で苦しむのは、大人だけではありません。まずは、子どもが発症する主な心の病とそのサインについて見ていきましょう。
【うつ病】
「うつ病」と聞くと、まったく動けなくなってしまう状態をイメージされるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。とくに子どもにおいて注意すべき症状は、イライラです。いつもより落ち込んでいる状態が続くだけでなく、イライラしやすいときにはうつ病の可能性があります。思春期ですと見分けにくいですが、イライラが反抗的な態度や怒りっぽさとして表れることも多々あります。
また、極度に自信がない、普段以上に罪悪感を抱いてしまうといった状態もうつ病を示唆していることがあります。やる気が出ないのもサインの1つで、成績や部活等のパフォーマンスに影響が出ていることも少なくありません。
さらに、食欲減退・増加、不眠・寝不足・過眠も要注意。死について質問してくるなど、希死念慮を感じさせる場合も気を付けましょう。
【持続性うつ障害】
また、「持続性うつ病」も子どもに時折見られます。劇的に落ち込んでいるわけでも、やる気がないわけでもないけれど、元気なときと比べると落ち込んでいるように見える状態が1年以上続く場合、この診断が下されます。例えるなら、“低空飛行のうつ病”です。日常生活はある程度できるため、通常のうつ病と判断しにくい点が厄介です。
【不安障害 】
不安や心配事にとらわれ、それ以外のことを考えるのが難しい、ほかのことに手が付けられない、さまざまなことに集中できないなど、生活に支障をきたしてしまうのが「不安障害」。うつ病と同じく成績や部活のパフォーマンスに影響が出ることも多々あります。考えすぎてしまっている状態が続いているため、睡眠にも問題が発生しやすいです。また、人間の体は不安になりすぎると胃酸が強く出てしまうので、原因不明の腹痛がサインとして表れることも多いです。
【適応障害】
「適応障害」は、環境等の何らかの変化にうまく適応できずに生活に支障をきたしてしまう心の病です。さまざまな型があり、子どもによく見られるのは、「不安型」「うつ型」「不安とうつ型」の3つ。これらは、前述したうつ病および不安障害と同じサインが見られます。
【反抗性挑戦性障害】
生活に支障をきたしてしまうほどの反抗的な態度を大人に示すのが、「反抗性挑戦性障害」。うつ病と区別がつきにくいですが、イライラしやすかったり怒りっぽかったりすることも特徴です。「年頃の反抗期」と軽視されがちですが、うつ病や不安障害等を併発していることが非常に多く、注意が必要です。
【分離不安】
「分離不安」は、とくに幼稚園から低学年の子どもが発症します。文字通り保護者と離れることを非常に怖がるのが特徴で、保護者に何か嫌なことが起こる夢を見るケースもよくあります。多くの場合、保護者が子離れに対して極度な不安を感じてしまっていることが影響しています。
【パニック障害】
「パニック障害」は、何らかの出来事が引き金となり、過呼吸、手の震え、極度の汗、動悸が速くなる等の症状を何度も経験し、結果として生活に支障をきたしてしまう心の病です。学校で嫌なことがあった後に学校のことを考えただけでパニックになる等、問題の原因について考えるだけでパニックになることもあります。原因の根本を極度に避けようとするのも、よくあるサインです。
上記のサインが見られる場合、自己判断はせず、心理カウンセラーや心療内科医・精神科医に相談することが望ましいです。
GW明けに増える心の病は?学校は休ませるべき?
GW明けに罹患しがちな心の病は、適応障害です。長期休暇後の登校は、子どもによっては大きな環境の変化となり、適応できずに発症します。あるいは、もともと発症していたうつ病や不安障害が悪化してしまい、明らかなサインが見られる場合もあります。

カリフォルニア州公認心理カウンセラー
富山生まれ、名古屋育ち。小学校高学年頃からいじめなどが原因で心の病を患う。中学時には教師からの体罰に苦しみ、いじめが原因で不登校に。16歳で高校中退。2年間のカウンセリングを受けた後、夜間高校に入学。話を聞くことにより下級生の高校中退を何度も防いだことを通じて、話を聞くことの力を知る。アメリカに短期留学した後、心理カウンセラーを目指して渡米。カリフォルニア州立フラトン校大学卒業、同校大学院カウンセリング専攻卒業。カリフォルニア州公認心理カウンセラーの資格を取得し、現在はロサンゼルス近郊で開業して心理カウンセリングを提供。専門は、子どもとその家族、不安とうつ病、アダルトチルドレン
(写真:本人提供)
こうした兆候があった際、学校を休ませるべきか、判断に迷うこともあるでしょう。しかし、“学校を休ませるべき基準”は明白です。それは、いじめで苦しんでいる場合と教員からの体罰で苦しんでいる場合です。なぜか日本社会は加害者に対して確固たる厳罰が与えられないだけではなく、加害者を守ろうとする傾向が強く、被害者ばかりが損をしがちですが、子どもの心身を守ることを最優先するためにすぐに学校を休ませるべきです。
一方、いじめと体罰以外で心身の危険がなければ、心の病に対しては「保護者や先生がどう接すれば、子どもが登校できるか」というスタンスを取るべきです。なぜなら、人は生きていれば何らかのストレスを受けるものであり、ストレスとの向き合い方を学ばなくてはいけないからです。
例えば、不安障害や適応障害の不安型であれば、段階を踏んで少しずつ不安やストレスと向き合っていくことが大事です。完全に休ませると、「不安やストレスとは向き合わなくてもいい」という非現実的な社会への理解につながり、健全な不安やストレスとの向き合い方を学べず、長期間の不登校に誘いかねません。
重度のうつ病であったとしても、保護者や教員は登校させるというスタンスを変えるべきではありません。一度休むと長期的に休んでしまうことが多く、これではうつ病が悪化してしまうからです。ただし、自殺の危険性が高く、なおかつ登校が自殺のトリガーになりかねない場合は、学校を休ませて治療に専念させましょう。一方で、社会との関わりがなければうつ病の改善は難しいので、ある程度の安定がみられるようになったら登校させるべきでしょう。
日本で多く見られる「ストレスとなり得るものを取り除けばいい」とする対処法は、日本の精神医療・心理学の後れを如実に表していると感じます。さらに、最近の日本では、「子どもがつらいと言うから休ませる」という保護者の対応も当たり前となっていますが、それも必ずしも正解ではありません。
基本的には子どもがやるべきことを放棄させないことは保護者の責任であること、子どもの脳は未発達で大人のように論理的には考えられないことを理解したうえで、慎重に判断する必要があります。安易に子どもの主張を受け入れすぎると、保護者は徐々に権威を失い、子どもはさらに言うことを聞かなくなり、不登校になってしまいます。
子どもが心の病に罹患、保護者に多い「3つの特徴」
大前提としてご理解いただきたいのは、子どもが心の病で苦しんでいる主な原因は家庭にあるということです。よって、保護者が変われば子どもの心の病が治ることも多いです。
では、「保護者が変わる」とはどういうことでしょうか。
まず、子どもの罹患を受け入れることが重要。受け止めなければ、反省できず、結果として何も変わらないからです。とくに子どもが心の病に罹患している家庭には次のような特徴が多く見られます。
② 子どもに厳しすぎる、あるいは甘すぎる
③ 保護者がコミュニケーションの問題を抱えている
保護者からのリスペクトを感じられないことが、心の病の主な原因になることは多々あります。①の家庭で大切なのは、子どもの話をじっくり聞くこと。ただうなずくだけではなく、子どもの感情に合わせて感情表現をする、聞いたことを要約して理解が正しいことを確認する、携帯を片手にではなくしっかりと話を聞く姿勢で聞いてあげる、自分の考えを押し付けすぎないなど、さまざまなことに気を付けなくてはいけません。
②の視点から、子育てを見直すことも大切です。子どもの心は、保護者が厳しさと甘さ、両方のバランスをうまく保って初めて健全に成長します。厳しすぎれば自由が奪われ「自分の人生をコントロールできていない」という感覚に陥り、逆に甘すぎれば必要以上に人生をコントロールできてしまえる錯覚が生じ、心の病の原因になるのです。
③の状態も改善が必要で、保護者が2人以上いる場合は、保護者間のコミュニケーションを見直しましょう。とくに、男尊女卑が目立つ関係は、男性がコントロールしすぎてしまい、コミュニケーションを難しくしがちです。
教員は子どもや保護者とどう向き合うべきか?
学校の教員は、子どもが心の病に罹ったらどうすればよいでしょうか。まずは、腫れ物に触るような扱いは避けましょう。突然態度を変えられるのを子どもは一番嫌がります。しかし、教員が子どもの心の病の原因の1つである可能性を否定しきれない場合は、教員の接し方が威圧的になっていないか、もしくは自由を与えすぎていないかを見直しましょう。保護者同様、教員も子どもに与える自由とコントロールのバランスが大切です。
また、時間を取って子どもの話をじっくり聞いてあげることも、子どもの心の病の緩和につながります。実際に私も、高校を辞めた後の苦しい期間に中学時代の先生方に何度も何度も話を聞いていただきました。専門家としてその当時を振り返り、どれだけ助けになっていたのか実感しています。
しかし前述のとおり、子どもの心の病は、家庭環境が影響していることが少なくありません。そのため、教員と保護者は、学校と家庭の子どもの状態をできる限り共有し、子どもへの接し方で見直せるところをお互いに指摘し合えるような信頼関係を築くことが理想的です。先生方の多忙な現状を考えると難しいことは重々承知していますが、学校が保護者に優しく寄り添いながらも変化を促せると、子どもの心の状態が改善できます。
一方で、教員はカウンセラーではないので、治療はできないと保護者に理解していただくことは大切です。また、学校などに責任を丸投げする保護者には、子どものために断固たる姿勢で接し、責任所在を明白にするなどの線引きも必要でしょう。
校内の連携としては、教員も自分は心の病を治療する専門家ではないことを理解し、スクールカウンセラーに子どもの学校での様子をできる限り共有してください。スクールカウンセラーが教員から情報をもらえないという声をよく聞きますが、これでは心の病の治療が難しくなります。子どもによっては、心の病の原因が担任でなくても、担任以外の教員に心を開きやすいこともあります。その際は、担任はあまり自責の念を強く持ちすぎず、その子どもが接しやすい先生と連携を密に取ることが大切です。
(注記のない写真:Graphs/PIXTA)