吉田さんがこう語るのは、SNS上で誹謗中傷や過度にネガティブな投稿をしたり、『辞めたい』『死ぬ』などと発信する教員がいる一方で、実際に出会ってきた教員の多くが生き生きと働く姿を見ているからでもある。
「たしかに現場でも、『もうやっていられないよ!』と漏らす先生はいます。でも、これまで20年間の教員人生で見てきた限り、みなさん子どもたちの指導はとても楽しそうにされるのです。当然つらいこともありますが、充実感をもって働いている先生が多数だと感じます。
それがSNSだと、現場で明るく輝いている先生の姿は見られず、まるで教員がみんな病んでいるかのような印象ですよね。これでは教員志望者が減るのにも納得せざるを得ません。ネガティブなSNS投稿をして『いいね』やコメントが集まれば、いっときの承認欲求は満たせるかもしれません。しかし、徐々に教員としての日常まで蝕まれてしまう気がしてならないのです」
匿名でも特定可能、SNSでの誹謗中傷は罪に問われる
今やSNSは、子どもたちも積極的に閲覧・活用するツールだ。職業が教員であることを明かしながら、匿名という仮面をかぶって学校と異なる言動をしてみせることは、果たして正しい振る舞いなのだろうか。吉田さんは、そんな問いも突きつけている。
「ひとつだけ、誹謗中傷に遭ったことを前向きに捉えるなら、子どもたちに『他人に悪口を言ってはダメだよ』と伝える説得力が増したことでしょうか。『大人でも、先生でも、他人の悪口を言ってしまう人がいる。そういう人は、誰かを傷つけることがやめられなくなっているんだと思う』と話すと、子どもはとても素直に聞いてくれます。
『先輩が悪口を言ってたら注意できる? 先生はできなかった……』『友達に誰かの陰口を振られたらどうする?』など、自分の経験も正直に話すと、子どもも一緒になって考えてくれるのです。先生方はよくわかると思いますが、子どもは大人のやることを真似するもの。まずは教員同士の傷つけ合いを少しでも減らせるよう、今後も情報発信に力を入れたい気持ちはあります」
言うまでもなく、SNSでの誹謗中傷は、名誉毀損罪や侮辱罪に問われたり、高額の慰謝料を請求されたりする。とりわけ侮辱罪は2022年7月に厳罰化され、懲役刑も加わった。自ら投稿やコメントをした場合はもちろん、第三者の投稿をリポストしたり、『いいね』をするだけでも罪に問われる可能性があり、匿名アカウントであっても発信者は特定できる。今後、教え子たちが被害者・加害者としてこうしたリスクに晒されることがないよう、教員もいま一度、基本に立ち返る必要があるのではないか。
(文:高橋秀和、注記のない写真:Luce / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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