マタハラで傷ついても「退職」だけは避けよう 弁護士が語る、被害者が陥る「ドミノ倒し」

拡大
縮小

新村弁護士にとって印象深いのは、労働審判で有期契約社員に育児休業の取得を認めさせたケースだ。弁護士登録の翌年のことだった。

パートの女性が、育児休業を取得したいと職場の所長に申し出たところ、所長は「タイミングが悪い」「1年の育休が取れるのは正社員だけ」などと言って拒否するとともに、契約期間の末日で雇い止めにすると通告した。そこで、育児休業を所得する資格を有する地位の確認を求めて、東京地裁に労働審判を申し立てた。

「マタハラでは初めて担当する案件だったことに加え、理想的に解決できたという点でも思い入れ深いものがあります」

会社を辞めると、再起が難しい

この事案では、会社側が申立の趣旨を認めたため、育児休業を認めることを含めた内容で調停が成立。女性の保育園の諸手続きに会社が協力することや、休業直前の部署・職務に復職させることなど、復職後を視野に入れた項目も盛り込まれた。女性は育児休業を取得後、職場に復帰。今も勤務中で、子どもは9歳になった。

しかし、復職を果たすケースは珍しく、ほかの案件では女性が会社を辞めてしまうケースも多いという。

「会社を辞めてしまうと、再起が難しいんです。無職では保育園に子どもを預けられず、雇ってもらうことも難しい、という悪循環にはまりがちです。こういう状況を『マタハラドミノ倒し』と呼んでいます。やはり、職場に復帰するかたちの解決が望ましいのです」

弁護士を目指したのは、広く人権問題に取り組みたかったから。弁護士になれば、人権侵害を受けている人の役に立てるほか、政策提言によって、世の中を変えていける可能性もある。

「マタハラの問題に取り組むことは、弁護士を目指したときの思いとつながっていて、やりがいを感じます」

(取材・構成/具志堅浩二)

新村 響子(にいむら・きょうこ)弁護士
東京弁護士会所属 日本労働弁護団事務局次長、東京都労働相談情報センター民間労働相談員。労働者側専門で労働事件を取り扱っており、マタハラ案件のほか解雇、残業代請求、降格、労災、セクハラなど多数の担当実績がある。
事務所名:旬報法律事務所

 

弁護士ドットコムの関連記事
「流産した君には配慮する必要がない」と人事部に言われたーー「マタハラ」最新事情
「おかしいだろ、これ」安保法案強行採決に新潟県弁護士会長が「一行コメント」
「タダで食べ放題」相席居酒屋で、大食い女性に「退店して」――店の対応は許される?

 

弁護士ドットコム
べんごしどっとこむ

法的な観点から、話題の出来事をわかりやすく解説する総合ニュースメディアです。本サイトはこちら。弁護士ドットコムニュースのフェイスブックページはこちら

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT