ピンピンコロリは長寿社会のためならず--『ご老人は謎だらけ』を書いた佐藤眞一氏(大阪大学大学院人間科学研究科教授)に聞く
──老人と思っていない?
これは、マーケティング上で真剣に分析されている。自分の意識としての主観年齢と、暦年齢(実年齢)がかなり違っていて購買の決定は主観年齢でするというもの。最近、特にそういう傾向が強い。お年寄りではないが、40~50代の女性の服装を見てみるとよくわかるのではないか。私に言わせると、現実にも若いとはいえ、娘と同じような格好をしたりしている。
身体さえ健康であれば、人はさほどエージングを感じないものなのだ。ほとんどのお年寄りが自分のことを実年齢より若いと感じている。しかも、超高齢になって病気になり、急に身体が衰えても、自分では老人とは感じない人が少なくない。死に近くなったという感覚のみのようだ。人は老いを自分ではさほど感じず、老人と感じることなく老いていくものだ、と理解しておくといい。
──長寿な人はわがままにも見えます。
わがままとは、認知的な情報処理のスピードが落ちること。スピードが衰えてくると、いろいろと配慮することが難しくなる。どうしても自分の欲求や願望を満たすことだけに目が行く。お年寄りが何かと頼みがちなのも、自分で効率よくできないことは、頼んだほうが欲求を満足させやすいからだ。
電車に乗るのに、人を突き飛ばして席を確保するようなお年寄りも、わざとそれをやろうとしているのではない。立ちっぱなしはつらいので座りたいという欲求を満たすことだけが頭にあって、周りにいる人に迷惑をかけることに対しての、情報の分配的な注意が抜けてしまう。
お年寄りは、生活スタイルとして、毎日決まった生活をしたほうが健康に生きられるし、体調も維持できると知っている。だから、なるべく生活のリズムを壊したくない。そのため、今これをしなければいけないと躍起になりがちで、それが周りの人にはわがままと映る場合もある。
──高齢者になると、やせがちでもあります。
中年期の課題は肥満にならないことだが、高齢者は努力をしないと、大抵は逆に体重が落ちる。食自体が細くなり、あっさりしたもののほうがいいという意識もあったりして、栄養の足りない人が増える。それでは老年症候群という悪循環にはまりかねない。つまり、やせると体力がなくなるので閉じこもりがちになり、外に出たら出たで転びやすくなって、また閉じこもる。その症候群のポイントは筋肉減少症で、それが一定水準を超えると、急進展して老衰で死んでしまう。予防法は虚弱にならないこと。超高齢者になる頃からは、良質の動物性タンパク質を好んで取るほうがいい。
──高齢者に孤独死が目立つようです。
孤独死というより、むしろ「孤立死」。セルフネグレクト、もう自分の命なんかどうなってもいい、という、いわば消極的な自殺だ。今や生涯未婚率(50歳以上で結婚したことのない人の比率)が、男性で20%を超えた。男性の30代未婚率は47%という調査もある。中でも孤立した男性をどう社会でサポートしていくか。「自立神話」では無理がある。