金正日の死に涙する北朝鮮国民の心の内--イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト

一国の国民全体が発狂することがありうるのだろうか。確かにそう見えることは時々ある。数十万人の北朝鮮人が金正日の死を悲しんで泣き叫ぶ様子には、何か非常に不安な気持ちにさせるものがある。しかし、それは何だろうか。集団的な妄想の実行だろうか。集団的なマゾヒズムの儀式だろうか。

金正日は残酷な独裁者だった。自分自身は、フランスの最高級ブランデー(一説には年50万ドル相当)に、東京から空輸される新鮮なすし、カネで雇えるかぎり最高のシェフたちと、やりたい放題だった。その一方で、数百万人の国民が餓死した。だが、この国では、虐げられ、踏み付けにされてきた大勢の国民が、愛する父を失ったかのように、金正日の死を嘆き悲しんでいる。

平壌において人前で嘆き悲しんでいる人々は最高の特権階級に属しており、劇的な叫び声は、悲しみを表現する朝鮮の伝統的な方法である。ただ、そうであるとしても、北朝鮮発で放映された振る舞いは常軌を逸しているように見える。納得できる説明はあるのだろうか。

第一に、こうした例は北朝鮮だけに限ったことではない。ポーランドほどスターリンの残酷さに苦しめられた国はないが、多くのポーランド人もスターリンの死後に人前で嘆き悲しんだ。もちろん、これが強要された可能性はある。それは恐ろしい形の自己卑下の強要である。ひどい仕打ちを我慢するだけでなく、虐待者に感謝し、その死を嘆かなければならないのだ。

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