このように自分のやりたいことに邁進している笠原さんですが、中学時代には性教育について話しても、なかなか先生や友人に理解してもらえず残念な思いもしてきたそうです。しかし、「自由学園の先生は生徒の話を聞きやりたいことを応援してくれるし、周囲の生徒も受け入れてくれるので、自分から働きかけたいと思うようになった」とうれしそうに話してくれました。
今は女子高校生に、お産についてもっと知ってもらい、ワクワクしたお産を引き寄せる選択肢があることを広めたいと、授業の合間に外部の専門家の研修会にも参加して見聞を深めています。
身近な生活の中で自治を学ぶことで民主主義のマインドが育つ
2人のケースでわかるように、学園では生徒がやってみたいということはできるだけ実現させたいと考えており、個人探求で酪農に興味を持った生徒を、岩手県の日本の代表的な山地酪農家とつないで現地まで行くなど、実践を通した学びはキャンパス外に広がります。一貫して、生活即教育。日々の実践を通して学ぶことで、その人の一生の土台を作っていく学校でした。
こうした自由な活動ができるのも、この学校ならでは。高校は単位制で、卒業までの必修科目を履修した後は、生徒が自分の将来を考えてやりたいことにチャレンジをしていけるのです。
やりたいことができる一方で、学園の学校生活・行事は生徒自身の自治によって運営されているので、生徒たちはそれぞれに任せられた仕事をいかにやり遂げるか、どのようにして責任を果たすのかを、自分の頭で考え、行動することが求められます。その中で、当然意見の違いや行動をしない人にどう役割を担ってもらうのかなど、さまざまな葛藤が生まれます。そんな日々の活動を通して民主主義のマインドが育っていくのです。
最後に2人にどんな学校かを聞いたところ、「やりたいこと好きなことを持っている人は伸びる学校」「これまでの学校教育に違和感がある人、やりたいことがある人は楽しいと思う」という答えが返ってきました。
デジタル化する世界の中で、教育の世界も変わってきています。確かにネット環境の中で学習は一人でもできます。そんな時代だからこそ、私は人が育つとはどういうことなのか、学校という場所は何のためにあるのか、改めて問い直したいと思います。
自由学園で行われていたのは、生身の体を持った人として、生活を疎かにしないこと。そして、社会に適応する教育ではなく、自らより良い社会を作っていくマインドを持った人を育てる教育でした。
多感な10代に、どんな環境の中で、どんな言葉を浴び、どんな体験をするかは、その人の一生を決めるくらいの影響力があります。
都心から15分とは思えない、緑豊かな10万平米のキャンパスに歴史的建造物が点在し、本格的な畑と、養殖池に養豚所まである自由学園。ここから、どんな才能が開いていくのか楽しみです。
(注記のない写真・動画:自由学園提供)
執筆:教育ジャーナリスト 中曽根陽子
東洋経済education × ICT編集部
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