少子化でも首都圏では中学受験率は増加傾向

中学受験が過熱しています。首都圏模試センターによると、首都圏の中学受験者数は2023年までに9年連続で増加し、2024年はわずかに減ったものの、国立・私立中を受験した小学6年生の割合は18.12%で過去最高となりました。

また、2025年入試の受験者数も、小学6年生の模試の受験者数から昨年同様5万2000人を超えて高止まりとなりそうという予測が出ています。今後首都圏の小学生の数は減っていきますが、最近の小学生の保護者が、中学受験と中高一貫教育に向ける期待は大きくなっていることがわかります。

受験者数が増えたことで、人気の中心は中堅校といわれる偏差値50前後の学校に移ってきています。

この表は、首都圏模試センターが2024年7月に実施した模擬試験を受けた6年生が、志望校として名前を入れた学校の志望者数の総数を前年度同月の数字と比較したものです。首都圏模試センター取締役教育研究所長の北一成氏いわく、「各学校の人気傾向がダイレクトに反映されている」データです。

中学受験の世界を知らない人からしたら、あまりなじみのない名前も交じっているかもしれませんが、学校取材を続けてきた立場からすると「やはりこの学校は伸びてきたな」と思う学校名が多数あります。そういう学校に志望者が集まっているということは、何がなんでも偏差値上位校を目指すという価値観から、教育内容を吟味して学校を選ぼうという人が増えている表れとも言えるでしょう。

その一方で、首都圏では約5人に1人が中学受験を目指す状況になっているだけに、中堅校の偏差値も上昇傾向にあり、入試を目前にして、つらく苦しい“受験沼”に落ち込んでいる受験生と親も多いのではないかと危惧しています。

受験沼にハマり苦しむ親子続出「ハマらない」ための受験軸

私は、これまで20年間にわたって200校以上の学校を取材し、2万人以上の受験生と親に接してきました。なぜ、よかれと思って始めた受験なのに、子どもだけでなく親も「受験沼」にハマってしまうのでしょう。

中曽根陽子(なかそね・ようこ)
教育ジャーナリスト/マザークエスト代表
小学館を出産で退職後、女性のネットワークを生かした編集企画会社を発足。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに数多くの書籍をプロデュース。その後、数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして紙媒体からWebまで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。「子育ては人材育成のプロジェクト」であり、そのキーマンであるお母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。著書に『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)、『成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの「探究力」の育て方』(青春出版社)などがある
(写真:中曽根氏提供)

一つには、中学受験が「レールを敷くのは親、走るのは子ども」という二重構造になっていることが原因です。中学受験で、実際に受験をするのは子どもです。でも、受験のレールを敷き、サポートするのは親の役目。一度走り出すと、子どものためと思いながら、やはり「偏差値」に振り回されたり、思うように上がらない成績に落ち込んだり。日々入ってくるさまざまな情報に敏感になってしまい、家族間ですれ違いが起き、なんのために受験しているのかわからなくなっていく……。

こうして「中学受験の沼」にハマる親子を何組も見てきました。だからこそ、受験沼から抜け出し、受験を成功させるためには、「受験軸」が欠かせないと痛感しています。

受験軸とは、「何のために受験をするのか」「どう受験をするのか」についての家庭内での基準のことです。

受験軸を決めることは、受験勉強の理由(動機)を決めることでもあります。勉強の動機と成績には深い関係があるのをご存じでしょうか。ある調査では、「勉強をすることが楽しいから」「自分の夢をかなえたいから」などの自律的な動機で勉強する子どもの成績が、動機がないまま勉強をする子より高いということがわかっています。

当然の結果と言えるかもしれませんが、自分で決めた軸(動機)をベースに、受験に向かうことで成績も上がりやすくなるといえるでしょう。さらに、受験軸があると、徐々にですが、他者の存在や外部のモノサシに親子共に振り回されなくなります。

受験での親子ゲンカは、「なんで勉強を頑張れないの?」「なぜ、やる気を出せないの?」と、親から子どもに非難のベクトルが向き、親子が対立することで起こりがちですよね。目標もなく「ちょっとでもいいところへ」という思いで受験勉強を行うと、それを達成できない子どもを変えたくなり、子どもに注意したくなります。

そして、出口のないトンネルを走ることになり、子どもも親もフラストレーションがたまり、衝突も増えてしまうのです。でも、「なんのために受験するのか」「どう受験するのか」という「大きな目的(軸)」を家族で共有できれば、うまくいかない場合でも、子どもと一緒に立ち止まって広い視野でどうすればいいか考えることができます。

「自分たちで決めたゴールにどうやってたどり着いたらいいか」と考えることで、親子でのすれ違いも減っていくでしょう。このように受験軸を持つと、出口が見えない中学受験の悩みからも解放されていくのです。

受験直前期だからこそ、わが家の受験軸を見直す

今は12月。年が明ければいよいよ入試が始まります。今まさに受験直前という方もいらっしゃるでしょう。目前に入試が迫ったこの時期、現実的な受験準備に追われたり、学習面の不安に直面したりと手いっぱいかもしれません。

12月最後の模試で思うような結果が出ず、今さらながら受験校を変えたほうがいいかなと、悩む人も多いです。かつて私も子どもの中学受験を経験しましたが、まさに小6最後の模試の結果が振るわず、受験校を変えたほうがいいのか悩みました。

結果的には受験する学校は変えず、最後の2カ月は過去問対策で乗り切りましたが、今の中学入試は、受験日程も入試要項も複雑で、どの日程にどこの学校を受験するのか、今なお悩んでおられる方もいるでしょう。同じ学校でも、偏差値も日程によってまったく違うので、一概に模試の合否判定の結果だけで併願校を決めるのは危険です。

ですから、実際に出願するときには、日程ごとの募集状況や難易度も詳しく見ていく必要があります。そんな時こそ、我が家の受験軸を見直し、軸に沿った学校選びをすることが大切です。併願校選びで押さえておくべきポイントは、次の3つです。

反対に避けたいのは、不合格が続いて、それから慌てて出願し、見学したこともない学校を受験することです。受験する学校は事前に一度は訪れたところにしましょう。

受験軸に沿って見ていけば、だんだんわが家、わが子に合いそうな学校というのが見えてくるはずです。それが見えてきたら、実際のお子さんの合格可能性の数字と照らし合わせながら、意中の学校を4、5校に絞って、組み合わせていくのです。このときには偏差値も活用してください。

ここでもう一度、何のために中学受験をしようと思ったのか、どんな中学校生活を送りたいのかをお子さんと一緒に話し合って、最終的に受験する学校を決めてください。

わが子にあった学校選びのための「カテゴリー別」学校の特徴

最適な学校を選ぶための、10のポイントは以下の通りです。

『中学受験 親子で勝ちとる最高の合格』(青春出版社)では、校風(サポート型か、自主性尊重か)と教育方針(プログレッシブ教育か、受験科目重視か)から学校の傾向を見るマトリクスと、取り組みから学校の特徴を見るレーダーチャートを提供していますが、ここからは、首都圏模試の受験者の間で志望者が増加している学校の中から、マトリクスのどこに入るのかをいくつかピックアップして解説します。

横軸は校風を自主性尊重かサポート型かで分類、縦軸は教育方針をプログレッシブ教育と受験科目重視に分類しています。

プログレッシブ教育というのは、学習者の自主性や創造性を重視し、従来の教育方法に比べてより個別化されたアプローチを採用する教育スタイルのこと。受験科目重視の学校は、従来型の一般入試突破のための学習指導を重視しています。

志望者数1位の開智所沢中等教育学校は、カテゴリーとしては、サポート型プログレッシブに入ると思います。2024年に開校した学校法人開智学園の新設校です。探究・国際・医進という今のトレンドを押さえたコース設定による教育内容と、埼玉県の学校なので1月に受けられるうえ都心からのアクセスもよいことから、併願校としても魅力があり、開校初年度から人気を集めましたが、今年度も多くの受験生を集めそうです。

これ以外にも、サポート型受験科目重視だった学校が、時代の変化や大学入試の変化に対応して教育内容を変化させプログレッシブ教育に移行している傾向が増えています。例えば、山脇学園や湘南白百合学園など伝統女子校でその傾向が顕著です。

次にここ数年じわじわ人気が上がっているのが、日本工業大学駒場中学校。カテゴリーとしては、サポート型受験科目重視に入る学校でしょう。

この学校は、もともとは工業系の学校で、長くものつくり教育を行ってきた男子校でしたが、共学の普通科進学校に舵を切りました。時代の流れに沿ったICTやSTEAM教育も重要だと思っているが、何より大事なのは教育の中で人柄を育むこと。「まじめでなければいいものはできない」という信念のもと「自分には厳しく、周りに優しくできる人」を育てることを基本に、きめ細かい指導で、しっかりとした土台を育むことを何より大事にしている堅実な学校です。地下の機械実習室には、工業高校時代からの本格的な機械が揃っていて、ものつくりのおもしろさを味わえます。真面目にきちんと育ててほしいというご家庭に向いています。

そして、自主性尊重で受験科目重視というカテゴリー。ここに入る学校はあまり多くありませんが、神奈川御三家の栄光学園のように高偏差値の学校で、学校としては自主性に任せているけれど、生徒の多くが東大はじめ高偏差値の大学進学を目指すような学校が典型です。

しかし最近は、例えば海城や巣鴨、駒場東邦のような男子進学校も、生徒の自主性を尊重するようになってきています。巣鴨でグローバル教育を推進するある先生は、「従来のような管理型の指導では今の子どもたちはついてこないし、自主性を育てていくことがこれからの時代は重要だ」と述べていました。

そんな中、上記の一覧表に載っている学校の中では、淑徳巣鴨中学校はここ数年でサポート型から自主性尊重に変わってきている学校です。サポートは手厚いけれど、生徒自身が自分の興味関心に気づいていく主体性を促す気づきの教育を行っています。

最後のカテゴリーは、自主性尊重でプログレッシブ教育重視校。神奈川の横浜創英中学校は、元麹町中の工藤勇一氏が行った改革を引き継ぎ、自律・対話・創造を柱に「生徒主体の授業」を行っており、来年度から高校で一条校としては他に類を見ない大胆なカリキュラム改変を実施することでさらに注目を集めています。

具体的には、多くの学校が110単位ほどに定めている卒業に必要な単位数を、最低限の72単位に留め、生まれる余白の時間を自由選択の時間として、学校外で学ぶことも可能にしていきます。生徒の個に応じた1200通りの時間割をつくるという画期的な取り組みは、『学校に軸を置きながら、生徒たちを社会に解き放す』という強い意思の表れです。

平均的な力を育てることがよいとされていた時代の教育から、とんがりを作る教育へのシフトの先陣を切った形。社会を変えていける人を育てるというメッセージに共感する人に選んでほしい学校です。

どうですか。わずか4校でもまったく違う考え方をしていることがわかったのではないでしょうか。『中学受験 親子で勝ち取る最高の合格』では、ほかの学校についても学校選びのマトリクスで詳しく解説をしていますので、参考になさってください。

受験は終わりではなく始まり

このように、学校によって理念も教育方針も特徴があります。学校選びで何より大事なのは、その理念や教育方針に共感できるか。校風になじめるかという視点です。入学したら6年間、毎日過ごす学校で浴びていた言葉のシャワーが、知らず知らずの間に人格の土台をつくっていくものです。子どもから大人に成長していく6年間にどのような価値観に接するかは、重要ではないでしょうか。

日本全国で、小中学校の不登校の児童・生徒が30万人を超え、中学生の約5人に1人が「不登校」または「不登校傾向」です。受験は合格で終わりではありません。これから欠かせないのは、「どれだけ学びを深め自分のものにすることができるか」、そして「自ら人生を切り開いていく力」です。そう考えると、中学受験は、子どもたちが自分で人生の扉を開く最初のチャレンジとも言えるのではないでしょうか。

お子さんの受験を考えている方の直近の目的は、子どもに中高でいい教育を受けさせたいということかもしれません。でも、もう少し目線を未来に向けてみたとき、その先にある目的は何でしょう。

受験は、その子の人としての育ちの大事な機会になりますが、やり方を間違えるとしこりを残すことにもなりかねません。そして、中学受験では、そのどちらになるかを左右するのは、親の関わり方が大きいのです。

それだけに、私は一貫して受験軸を持つことを提案してきました。何のためにという目的を持つこと、そして、目的を達成するためにどうするのか考えて行動に移していくこと。さらに違ったと思ったら軌道修正して、自分のベストを見つけていく。これは受験だけでなく、その先の人生でも役に立つ考え方です。受験を通してそれを体得できたら最強です。

人生の中には、振り返ると「あのとき、あのことがあったから今がある」というような出来事があります。今、お子さんは、そんな経験をしている最中かもしれません。

どんな結果であれ、その経験が次につながる経験にできたとき、中学受験はお子さんにとって、育ちの大事な機会になったといえるでしょう。やってよかった受験にするために、今一度お子さんと受験軸を確認して、最高の合格を勝ち取ってください。

※本原稿は『中学受験 親子出勝ち取る最高の合格』(青春出版社)の内容をもとに加筆したものです。

(注記のない写真:ダイ / PIXTA)