2024年の中学受験者数の予測は5万2000名で微減

年が明けて、中学受験のシーズンがやってきました。

最近の中学受験を取り巻く状況ですが、昨年の首都圏中学受験者数は9年続きで増加して5万2600名、中学受験率も17.86%と過去最多を記録。今年は、首都圏模試センターが模試の受験者数から割り出した受験者数予測は5万2000名。昨年と比べやや少ないものの、受験率は17.98%で、その人気ぶりは衰えていないようです。

こういう数字を見ると、受験生がいる家庭では、受からなかったらどうしようと焦る気持ちになるかもしれません。

自分の子どもの中学受験をきっかけにこの世界を取材するようになって20年。これまでに取材した学校は、200校以上になります。また、塾の取材や首都圏模試の保護者講演会などで、受験生の保護者の方と接する機会も多く、そのお悩みを伺っている中で、親子関係が受験の結果にも影響することを実感しています。

ですからここは冷静になって、お子さんがベストを尽くせるように環境を整えましょう。そこで今回は、親子関係がよくなり、受験も成功するウェルビーイング、すなわち幸せな中学受験にするための3つの魔法をお伝えします。

ウェルビーイングとは、「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にもすべてが満たされた状態にあること」(日本WHO協会訳)です。

ウェルビーイングな受験と聞いて、「受験は競争なんだから、そんな悠長なことを言っていたら成功できないでしょう」と思われたかもしれません。でも、実はウェルビーイングを高めたほうが、結果的に成績も上がるというエビデンスがあります。

「子どもが自分から勉強するようになってほしい。やって良かったと思える受験にしたい!」と思われた方は、ぜひ最後まで読んでくださいね。

中曽根陽子(なかそね・ようこ)
教育ジャーナリスト/マザークエスト代表
小学館を出産で退職後、女性のネットワークを生かした編集企画会社を発足。「お母さんと子ども達の笑顔のために」をコンセプトに数多くの書籍をプロデュース。その後、数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。「子育ては人材育成のプロジェクト」であり、そのキーマンであるお母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。著書に『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)、『成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの「探究力」の育て方』(青春出版社)などがある
(写真:中曽根氏提供)

朝型に変えて生活リズムを整えると学力も上がる!?

私がお伝えしたいウェルビーイングな中学受験にするためのキーワードは、次の3つです。

1. 生活リズム
2. 親子関係
3. 学校選び

 

ウェルビーイングとは、「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にもすべてが満たされた状態にあること」と言いましたが、中でも肉体と精神はお互いに関係しあっていて、体が元気なら心も元気、気力が充実すれば実力もより発揮しやすくなります。そして、体と心が元気であるために、欠かせないのが、生活リズムを整えることです。

しかし、日本の子どもたちは、西洋諸国に比べて睡眠時間が短く、受験生はさらに睡眠時間を削って勉強しているはず。塾から21時過ぎに帰ってきて、寝るのは23時過ぎ。朝はギリギリまで寝ている。そんな家庭は多いのではないでしょうか?

塾通いが始まって、それが当たり前になってしまっているかもしれませんが、実は脳の健全な育ちには、生活リズムと質の良い睡眠が欠かせません。

健全な生活リズムになっているかどうかは、朝のお子さんの様子でわかります。お子さんは、毎朝、機嫌よく自分から起きてきますか? そして、しっかり朝ごはんを食べられますか? もし、「朝なかなか起きられない」「起きてもぼーっとしている」「食欲がなくて、朝ごはんが食べられない」そんな状態だったら、まず生活リズムを見直したほうがいいでしょう。

睡眠は情報を整理して記憶を定着させる働きがあるので、十分な睡眠を取らないと、学習にも悪影響を及ぼします。さらに、幸せホルモンと言われるセロトニンが十分に分泌されず、ちょっとしたことで不安になるなど、精神のバランスを崩してしまいます。本番で実力を発揮するためにもメンタルを整えることが大切です。

こういうお話をすると、「早く寝たほうがいいことはわかるけれど、塾に通っていたら無理!」「本番直前なのに勉強が間に合わない……」とおっしゃる方がいます。

でも、入試も朝から行われますし、脳は起きてから2時間後くらいに活性化するので、試験の時間に最も脳が動くように朝型に変えることをお勧めしています。

実際、私の周りには、朝型に変えて受験もうまくいった家庭がいくつもあります。夜の1時間より朝の30分のほうが、ずっと勉強ははかどります。集中度が違うからです。からだの調子もよいので、しっかりと朝ごはんを食べられるから活力があり、気力も充実します。結果的に遅くまで起きている子より勉強も進み、第一志望の難関校に合格しました。

そのお子さんたちも、進学塾に通っていましたが、授業が終わったら居残りはせず、すぐに帰り、帰宅後は勉強せずに10時前には寝ていました。代わりに、朝は6時前に起きて、学校に行く前に宿題や塾の勉強をしていました(時間が余れば好きなことをして過ごす時間です)。そんな生活を続けていると、夜は眠くなって起きていられないのです。

塾から帰ってきて、息抜きに動画を見ているというご家庭も多いのですが、寝る前に強い光を浴びると、なかなか寝付けなくなり、睡眠の質も落ちるので、動画やゲームなどのお楽しみも朝にしたほうがいいでしょう。

今の子どもたちは、幼い時から、勉強や習いごとで忙しく、夜更かしになっていたり、体を動かしてなかったり、生活リズムが崩れた結果、落ち着きがないとか、パニックを起こすなど問題行動が出ているケースは多いのです。

もしかしたら、皆さんの中にも、受験勉強がハードになった5・6年生になって、お子さんに異変が出てきている人がいるかもしれませんが、このまま突っ走ると、たとえ志望校に合格できても、後から問題が生じかねません。

もちろん、直近の受験を乗り越えるためにも、体力と気力が必要です。生活リズムが定着するには、1週間くらいかかるので、受験本番前の今こそ、早起きから始めて、生活リズムを見直してみてください。

受験の成功は、よい親子関係が9割

次の魔法は、良い親子関係です。「受験はすべてそうだが、うまくやればその子の人間としての育ちの大事な機会になるが、逆だとしこりが残る」。これは、私の最初の本『後悔しない中学受験』(晶文社)の帯に教育学者の汐見稔幸先生が寄せてくださった言葉です。

ほんとその通りだと思います。私は、かれこれ20年近く中学受験の世界を見てきましたが、お子さんの幸せのために中学受験を選択しているのに、良かれと思ってやっていることが逆効果で、結果的に親子ともに不幸になってしまうケースをたくさん見てきました。

そうなってしまういちばんの原因は、子どもの受験なのに自分の受験になってしまうことです。とくに中学受験は、親が決断して始めるケースがほとんどですし、まだ年齢的に親のコントロール下に置きやすいですからレールに乗せやすい。それが、中学受験のメリットとして語られることも多いです。でも、コントロールがいきすぎると、汐見先生の言うように、しこりが残る結果になってしまうのです。

お子さんの出来が良くて、やったらやっただけ成果が上がった場合、それはそれで「もっとやればもっとできるようになるのでは」と子どもを追い詰めていくことになりかねません。逆に、勉強しているのになかなか結果が出ない場合、「もっとやらせないとどこにも受からない」と親のほうが焦ってしまい、成績が上がらないことを責めたり、夜遅くまで勉強させたり、反対に何をやってもできないと決めつけて放置したり。いずれの場合も、いい結果は出ません。

では、どうしたらいいのでしょう。それは、「できているところを見るメガネをかける」ということです。

皆さんは、お子さんのテストが帰ってきたら、まずどこを見ますか? 点数? 偏差値? できなかった問題? 大抵は、そんなところかと思います。

そして、「どうしてこんな簡単な問題を間違ったのか」と責めてはいないでしょうか?

私たちは、勉強ってできないところをできるようにすることだと教わってきていますし、塾でも学校でも、できていないところを指摘して、できるようにしようとします。

でもこれも間違い。最新の心理学の知見では、人はできないところよりできるところに注目したほうが、能力が伸びるということがわかっています。まあ自分に置き換えてみたらわかると思うのですが、ダメ出しされてやる気が出るでしょうか? 出ないですよね。

私たちは、ついついできていないところに目がいってしまい、そこを埋めたくなります。これをネガティビティバイアスと言い、私たちのDNAに組み込まれているので、ある意味仕方ないことなのですが、だからこそ、あえてできているところを見るメガネをかけて、お子さんのできているところや強みを探してほしいのです。

できたところを認めてもらった子どもは、まず安心します。そのうえで、さらに良くなるためにはどうしたらいいかを考えれば、いろいろな方法が考えつくでしょう。

こういう話をすると、褒めたらもうこれでいいと思って、やらなくなるのではと言う方がいます。でも、そうではありません。

できると思えば、視野が広がり、行動が変わり、結果が変わるから、自尊感情が高まり、さらに理想を実現しようという行動をする。いい循環が起きるから、いい結果を引き寄せられるのです。

(図:中曽根氏提供)

私は、最新のポジティブ心理学を学び、ポジティブ心理学コンサルタントとして、ポジティブ心理学と脳科学をベースにした子育て講座を開催していますが、その中で、受験勉強で疲弊してやる気を失っていた子どもが、ありのままの自分でいられて安心して挑戦ができるような環境が整ったことで元気になり、成績も上がって志望校に合格した例はたくさんあります。

これも、親が変わることで親子関係がよくなった結果なのです。ぜひお子さんの良いところを見るメガネをかけて、お子さんの強みを見つけてくださいね。

わが子に合った学校選び

最後は、学校選びです。目標とする学校に受からなかった時にその結果を親が引きずり、「こんな学校に行くことになってしまった」とあからさまな言い方をする。進学することになった学校を否定することで、親子関係が悪くなる例はたくさんあります。

4日目まで全敗し、5日目の入試で初めて訪れた学校に行くことになったケースでは、その結果を親が受け止められず、子どももせっかく入学した学校を楽しめずに不登校になってしまったという例もありました。

だから私は一貫して、偏差値だけでない、わが家の学校選びの軸を持つことを提唱してきました。とはいえ、中学受験では相変わらず偏差値の呪縛はきつく学校選びの基準になっています。でも、これまで200校以上の学校を見てきて、偏差値だけに囚われていると、学校選びに失敗する可能性が高いと思っています。

偏差値は、あくまでも入試の難易度を表わす指標に過ぎません。首都圏はとくに学校も多いので、同じ偏差値帯でも、いろいろな学校があります。ですから、単純に偏差値だけでなく、それぞれの学校の特色を見極める必要があります。

例えば、校風一つとっても、管理型の学校もあれば、自主性を尊重する学校もあります。大学進学をゴールにして指導をする学校もあれば、社会に出た後に活躍できるように人間力の育成や探究に力を注ぐ学校もあります。私学は、それぞれに創立者が、育てたい人物像の理想を掲げて作られているので、必ずそこに根差した教育を行っています。

中高時代は、子どもから大人になっていく変化の時期。自分と向き合い、これからの人生の方向を定めていく土台作りの時期です。しかも思春期の葛藤を抱えるので、親より友達や先輩、そして先生など、第3者の影響を大きく受けて殻を破っていく時期です。

それだけに、どんな環境に身を置き、そこでどんな価値観を伝えられ、言葉を浴びるかで大きな影響を受けます。なので、私は、入り口の偏差値や出口の大学進学実績といった数字だけに囚われず、お子さんに合った学校を選ぶことをお勧めしています。

中学受験において、学校選びはほぼ親の仕事です。ただ、「大学進学実績がいい」とか、「偏差値が高くて名前が売れているから」ではなく、お子さんが過ごす環境として、何がベストなのかを考えること。時代の変化と共に、教育も大きく変わってきています。親世代の古い価値観で判断せず、学校がどこをみてどのような教育をしようとしているのかを見極めてください。

そして、いちばん大切なことは、受験する学校はすべて良い学校だということです。たとえ結果的に第一志望の学校でなかったとしても、ご縁をいただいた学校がベストな学校です!

受験は親子で成長できるチャンスです。せっかくの中学受験がお子さんの成長のプラスになるように、体も心も健康に、そしてお子さんに合う学校選びを心がけて、ウェルビーイングな受験にしていってください。

(注記のない写真:Mills / PIXTA)