提出の強制をしたら、「自主学習」ではなく「宿題」だ

――自主学習ノートを取り入れている学校は多いですが、やり方はさまざまのようです。田中先生はどのように取り組まれていますか。

僕が導入している目的は2つあります。1つ目は子どもたちの「家庭学習の習慣化」、2つ目は「自分の興味・関心を追求する楽しさの気づきの会得」です。多くの学校や先生方もこれと同じようなことを目指していると思いますが、提出を必須としている場合が多いのではないでしょうか。

僕はあくまで「自主的な営み」であるべきと考えています。自主学習を強制したら、それは名前を変えただけで宿題と同じですよね。宿題は、「よかれと思って」と大人の都合で子どもたちに課すものなので、子どもたちにとっては「自主的な学び」となりづらい。

実際、「今日は宿題なしだよ」と言えば、子どもたちは大喜びするのではないでしょうか。それは宿題がなければ学べない、学ばない子を育ててしまっているのだと思います。しかも一律一斉の宿題だと、「こんなの簡単」だと思う子もいるし、できなくて悩んでしまう子もいる。これは個別最適な学びへの配慮がされているとはいえないですよね。

だから僕は、一律一斉型の宿題はいっさい出さず、自主学習ノートを導入しているわけですが、これも「やってもやらなくてもよいもの」と設定しています。1日1ページの子もいれば2日おきにまとめてやる子もいるし、自分のペースでOK。選択できることが意欲につながると思うので、ノートも各自が好きなものを使ってもらっています。

過去の教え子(当時4年生)の自主学習ノート
(写真:田中氏提供)

――保護者には、どのように伝えているのでしょうか。

学級通信を通じて自主学習ノートの2つの目的や取り組みをお伝えし、「やってみませんか」という声がけはしますが、強制はしません。「基本的には学校の中ですべての学習が完結するよう僕が責任を持ってやっていますので、そのうえでお子さんがやりたいことがあればやらせてあげてください」というスタンスです。

そのため、今だとやっている子はクラスの3分の2くらい。でも、出さない子も何もやっていないわけではなく、家庭で購入した問題集やタブレット端末で通信教材などに取り組んでいます。目的の1つである「家庭学習の習慣化」に当たり、自主学習の「かたち」はどのようなものでも構わないと考えています。

モチベーションを引き出す3つの方法とは?

――しかし、いわゆる「宿題」に慣れていた子や、家庭学習に慣れていない低学年の子が、「やってもやらなくてもいい」と言われてやる気になれるのでしょうか。

最終的には、もう1つの目的である「自身の興味・関心を追求する楽しさの気づき」を会得してもらいたいので、その内発的動機を引き出すため、毎日やりたくなるようなさまざまな外発的動機づけは行っています。そのうちの主な3つの方法をご紹介しましょう。

1つ目は、クラスに初めて自主学習ノートを導入する時期にほぼ毎日やっていることですが、学校で実際に自主学習ノートをやってみるのです。「テーマは何でもいい、教室のどこでやってもいい、誰とやってもいい、1人でやってもいい。30分後に、取り組んだノートを提出してください」と言ってやらせてみる。これを繰り返すと、教員が各児童のペースを把握できるのはもちろん、子どもたちも自分のペースや自分に合った学び方がつかめるようになっていきます。

2つ目は、掲示の活用。僕は、福山憲市先生のご著書『知的学級掲示自学のアイデア』(明治図書出版、1994年)が本当にすばらしいと思っていて、ここに紹介されている、知的好奇心をくすぐる掲示を取り入れています。

福山憲市先生の「知的学級掲示自学」を応用(左)。取り組んだノートを積み重ねる「自学タワー」(右)
(写真:田中氏提供)

例えば、「画数が4画の漢字を書こう! ただし1人1つまで」という「タナセン(田中先生の愛称)の挑戦状」をひっそりと教室のどこかに貼っておくと、気づいた子たちがわいわいと書き始めます。そうやって挑戦状の存在にみんなが気づいた頃に「きっと4画の漢字をたくさん思いついた子もいるよね。続きは自主学習でやってみたら?」と言う。すると、みんな夢中で調べてきます。そのほか、森泉周治郎先生の実践「自学タワー」を作るなど、取り組みを可視化するのも有効です。

3つ目は、学び合いですね。例えば「ギャラリーウォーク」。机の上に自主学習ノートを広げてもらって、みんなで見て回り、よいと思ったノートにコメントを書いた付箋を貼っていきます。

自主学習ノートのギャラリーウォークは可能な限り毎日行う
(イラスト:田中氏提供)

すると、子どもたちは「こんなやり方があるんだ!」といった発見をしたり、友達からコメントをもらえるのがうれしくてニヤニヤしたり、学び合いながらモチベーションを高めています。できるだけ毎日5分ずつやるようにしており、時には僕も一緒に取り組みます。

担任も一緒に「教師自学」。赤字は子どもたちのコメント
(写真:田中氏提供)

以前は、よくできている子のノートをコピーして壁に貼っていたこともありますが、なかなか選ばれない子のモチベーションがしだいに気になり、今は全員の自主学習ノートを順番に書画カメラに写してみんなに見せることもやっています。その際も「よいと思うところを付箋に書いて貼ってください」とみんなでフィードバックします。このやり方なら、全員に光が当たるかなと思っています。

――フィードバックの際に気をつけていることはありますか。

友達同士のフィードバックでは、「字が汚い」などのアドバイスではなく、「ポジティブなコメントをしようね」というルールでやっています。

また、今年から探究学習ノート(内容は後述)のチェックに関しては、コメントやイラストなどのフィードバックをやめて確認したことがわかるような印だけ入れるようにしています。この活動は見てもらうためのものではなく自分のためのものであり、僕のコメントが動機づけになってほしくないと思うからです。

ノートを1冊やり終えたときは「おめでとう」と書いて、学級通信でも「よくがんばりました」と紹介はしますが、子どもたちには少し物足りないかもしれません。しかし、それでも子どもたちはやり続けています。おそらくやりきったことが自信になり、内発的動機づけにつながっているのではないかなと思っています。

大人になったときに必要な力が養える

――どのような自主学習の内容が多いですか。

導入直後はテストの準備や日頃の予習復習が中心になる場合が多いですが、しだいに興味・関心のあるテーマにも取り組む子が増えていきます。「今日何をやるか悩む」といった子どもたちや保護者の声もあるので、最初は自主学習のアイデア事例を30ほど集めてメニュー表にして配っているのですが、そういうサポートをしているとだんだん自己選択・自己決定ができるようになっていきます。

過去の教え子(当時4年生)の自主学習ノート
(写真:田中氏提供)

今のクラスでは、自主学習ノートに加え、1つのテーマをひたすら深掘りする「探究学習ノート」に挑戦する子もいて、すでに1冊終わった子が4人います。探究のテーマは、沖縄県、京都、猫、忍者、ポケモンなど、各自が好きなものや興味のあるもの。教員は教科学習と絡めたがりますが、楽しいものでいいのです。社会人になるとリポートを書いたりプレゼンテーションしたりする機会が増えますが、自由に探究する中でそういった将来必要な力が養われると考えています。

また、クラスの様子を見ながら、毎日帰りの時間や給食を食べた後などの隙間時間を使い、「家に帰ったら何をどのくらいの時間やるか」を自分で決めるよう促します。大人になるとセルフマネジメントやタイムマネジメントが大事になるので、ゴールや時間、クオリティーの設定をあらかじめ決めて実行し、振り返るという作業を意識させるのです。こうしたマネジメント力も自主学習ノートで培えると思っています。

――そのほか、どのような力が身に付くと感じていますか。

毎週の漢字テストの合格者数が増加するなど、やはり家庭学習が「当たり前」になると感じますね。日常的に調べる機会が増えるので、辞書や事典、資料集、計算機、パソコンなどのリサーチツールを使いこなせるようにもなります

また、自分でテーマを決められるようになったり、「今日は習い事があるからこのくらいの分量にしよう」「今日は背伸びして頑張ってみよう」といった配分のコントロールもできるようになったり、自分で「選択」「決定」する力が身に付くようになります。そういった自分に合った学び方の模索を通して、学習に前向きになるという効果もあるように思います。

田中光夫(たなか・みつお)
1978年生まれ、北海道出身。東京都の公立小学校教員として14年間勤務。2016年、主に病気休職の教員の代わりに担任を務める「フリーランスティーチャー」となる。これまで公立・私立合わせて延べ11校で講師を務める。NPO法人「Growmate」理事としてマーシャル諸島で私設図書館建設にも携わる。近著に『マンガでわかる!小学校の学級経営 クラスにわくわくがあふれるアイデア60』(明治図書)
(写真:田中氏提供)

(文:編集チーム 佐藤ちひろ、注記のない写真はiStock)