教員不足のいちばんの被害者は子どもたち
・受験生に対し、免許外の教師が授業を行うということが起こった。(愛知県中学校)
・3人に社会の臨時免許を持たせ、社会科未経験の先生が各学年に教えている。受験生の保護者からクレームがある。非常に混乱している状態。(鹿児島県中学校)
・育休代替講師が見つからず、自習で対応せざるを得なかった。(山形県中学校)
・病休補充の講師が見つからず、2クラス合同での授業を実施しなければならない状況になった。(岩手県中学校)
教員不足、講師不足に歯止めがかからない。冒頭で紹介したのは、「#教員不足をなくそう緊急アクション」※が全国公立学校教頭会の協力を得て今年4月に実施した調査で、小中学校の副校長・教頭からの声の一部だ。
※日本大学・教授の末冨芳氏、教職員の声を政策に届けるSchool Voice Project、妹尾昌俊氏による有志のチーム
教員不足とは、欠員状態を指すが、各地の学校で慢性的な人手不足となっている。労働力人口が減る中、あちこちの業界でも人手不足かもしれないが、教員不足のいちばんの被害者は、これからの社会を担う子どもたちであり、看過できない。
直近では実際、どのくらい欠員となっているのか。実は文部科学省も、誰も全国的な正確な数字を把握できていない。文科省は2021年度の4月、5月の状況を調査したきりで、あとは各教育委員会に「昨年度より悪化しましたか」などという、ゆるい調査しかしていない。こんなことでは実態をつかめないし、必要な予算を取っていくうえでも、政治家や財務省などに説得的に示せないと思うのだが。
この文科省調査(2021年始業時点)では小学校の4.9%、中学校の7.0%で不足があるという結果だったが、事態は一層悪化している可能性が高い。
次のグラフは、全国公立学校教頭会によるもの。悉皆ではないが、全国の約70%の小中学校の教頭職(副校長含む)が回答したのだから信憑性は高い。これによると、昨年度の年度初めに不足していたのは、小学校の11.5%、中学校の12.1%であり、前述した文科省調査の倍近い(両者で「不足」の定義が違っている部分もあること、また、回答者が教委なのか、学校側なのかの違いもある点は注意)。
しかも、年度途中に欠員となるケースも多い。これを含むと、2022(令和4)年度は全国の小中学校の約2割で教員不足が起きている。文科省調査の5%と、教頭会調査の20%では、政策を考えるうえで大違いだ。
なぜ、教員不足、講師不足となるのか
教員不足にはさまざまな背景があるが、教員需要の側面と、教員供給の側面に分けて考えると、わかりやすいと思う。一言で言えば、需要の割には供給が追い付かないので、欠員となっている。
教員需要について見ると、少子化だと、必要な教員数は基本的には減るのだが(もう少し正確に言うと、学級数が減れば、必要な教員数は自然減)、その計算以上に教員数が必要な自治体は多い。とくに影響が大きいのは、特別支援学級が急増しているためだ。
例えば、自閉症で支援学級を必要とする児童が一人でもいると、支援学級を設置して、教員を配置する必要がある。また、東京近辺や名古屋、大阪など、都市部の自治体では職員の人口構成上若返りが起きていて、出産・子育て期にあたる女性教諭が多い。男性の育休取得も増えている。産育休は年度途中でも起き、教員需要を押し上げる。
加えて、うつ病などの精神疾患で、仕事を続けられない教員も増えている。年度途中から休職になるケースも多いので、欠員が生じやすい。
次に、教員供給について見るが、はじめに学校での欠員補充の仕組みについて説明する。通常は、非正規雇用である常勤講師(臨時的任用教員)の登録者名簿(講師バンク)の中から選ばれる。教員採用試験に受からなかった人に講師登録してもらうことが多い。
教育委員会は、不合格通知を出しておきながら、「補充要員になってください」と言っているのだから、世間一般では非常識なことがまかり通っている。とはいえ、不足を見越してはじめから正規の教員を大勢雇っておくとなると、国・自治体にとっては、後年度の負担も含めて大きな財政支出となるし、産育休などはあとで正規職が復帰してくるのだから、非正規雇用が雇用の調整弁になってきた。
そして、以前は教員採用試験の倍率も高く、不合格者がたくさん出ていたし、何年か講師として経験を積んででも、正規職の教員を目指したいという人も多かったので、講師登録者はかなりあった。
これが、ここ数年で変わっている。周知のように、自治体によっては採用倍率は低くなっていて、不合格者数は以前より少ない。しかも、民間就職なども活況なので、教員採用試験がダメだったら、ほかに就職しやすい。講師をしてでも、正規の教員を目指そうとする人が減っている可能性が高い。そのため、年度途中から「学校で働いてくれませんか」と言われても、都合のよい人材はなかなかいない。
こうした結果、各地の講師バンクは払底しており、産休・育休の代替すら見つからないケースも多くなっている。
すぐに着手できる教員不足対策とは
以上のような需給ギャップが背景にあることを踏まえると、とれる策は限られる。というのも、特別支援学級を減らそうという政策はとれないだろうし、産育休を取るなということにはならない(むしろ奨励したい)からだ。
抜本策を考えるうえでは、今の非正規雇用に都合よく頼った補充の仕方、制度ではもたなくなっている問題がある。この問題は重要だが、相当大がかりな改革となるので、以下ではすぐに着手できることにフォーカスする。
それは、教員の負担軽減や働き方改革を進めて、働きたいと思える職場、働き続けやすい職場にしていくことだ。言い換えれば、今の学校現場で働いている先生たちを大切にする施策を打つべきである。
というのも、こちらの記事でも紹介したが、教員志望の意思が強い学生の多くは、自身の小中高生のときの経験が影響している (浜銀総研「教職課程を置く大学等に所属する学生の教職への志望動向に関する調査」)。一方で、教育実習で幻滅する人や「あー、やっぱり学校で働くのは大変だな」と実感して、教職を目指さなくなる学生もかなりいる。社会人からの転職を考えても、似たことが言えるだろう。
要するに、今の先生たちが生き生きしていないと、教員になりたいという人は増えない。いまや多くの自治体では、受験者を増やそうと躍起で、競争している。説明会を遠隔地で開催したり、YouTubeで先生の魅力を発信したり。だが、最大の広報の場は、今の学校現場である。
教員の負担軽減が進めば、心身を病んで休職する人や離職する人を減らすこともできる。教員になりたい人を増やし、かつ辞めたい人を減らす。教員供給と教員需要の両面に影響する、一石二鳥だ。
校長と教育委員会の当事者意識は高いのか?
だが、現役教員を大切にする施策、とりわけ、教員のメンタルケア(メンタルヘルス対策)は、文科省も各教育委員会も、弱いのではないか。
ストレスチェックでさえ実施できていない基礎自治体もあるし、実施していても個人に返すだけで、集団分析などで活用できていないところは多い。公立小中学校では、多くが職員数50人未満ということもあって、衛生委員会などで、現状把握し、対策を協議することも行われていない。産業医など専門家がいない学校も多い(精神疾患に詳しくない学校医が兼務する例なども)。
公立高校などで50人以上のところは、衛生委員会の設置や産業医の選任は義務化されているが、どこまで機能しているか(形骸化していないか)は未知数だ。また、小中学校等の教員について、文科省でさえ、やっと今年度にモデル事業を実施し、休職者の原因分析などをするという(言い換えれば、これまではほとんど手つかずだった)。
教員不足の問題も、メンタルヘルス対策も、総論としては、誰もが大事だと思っていて、危機感を持っていると言う。だが、各論、具体的に何をするかとなると、リーダーシップを発揮できている組織、人は少ないのではないか。
次の資料は、10月に国の審議会で私が提出したものだ。現在の制度では、市区町村教育委員会、都道府県教育委員会、学校、それぞれが、「〇〇が動いてくれないと、私だけではムリだ」という言い訳をしてしまいやすい構造となっている。
まったく無策だったとは言わないが、ここ10年あまり精神疾患で休職する教員が増え続けていることからも、これまでの対策では不十分である可能性は高いし、教育委員会も校長も、また文科省も、責任のなすりつけをしている場合ではない。
冒頭で紹介したように、学校では欠員も多数起きていて、被害は子どもたちに及んでいる。たまたま運が悪かった、で済ませてよい問題ではない。
(注記のない写真:Ystudio / PIXTA)