やはり「読書量」と「賢さ」は関係がある?

――子どもが本を読まなくなったと言われて久しく、教育現場でも読書活動が推進されていますが、田中先生はどのように読書指導に取り組まれていますか。

「作家の時間」という実践(関連記事)で作文指導を14年間続けていることは前にお話ししましたが、実はその「読むこと版」も併せて取り入れています。これも「リーディング・ワークショップ」という米国発の実践なのですが、「自ら本を読む『読み手』を育成しよう」という目的に共感し、日本の教室での実践をまとめた書籍『読書家の時間:自立した読み手を育てる教え方・学び方【実践編】』(新評論)を参考にして取り組んでいます。

文部科学省による今年度の「全国学力・学習状況調査」では、初めて家庭の蔵書数についての調査が行われ、蔵書が多い児童生徒ほどペーパーテストの正答率が高い傾向にあることが明らかになりました。「蔵書量=学力」とは言い切れませんが、関係がありそうだと思っている人は多いのではないでしょうか。

とくに教員は「読書量と賢さは比例する」と経験的に感じていると思います。僕も以前いた学校で、塾も通信添削教材も利用していないのにやたらと賢い子が何人かいたのですが、同僚と「彼らの共通点は『読書好き』だよね」と見解が一致して盛り上がったことがあります。実際、本人たちに聞いてみると、毎日多いときで1~2冊の本を読んでいると言っていました。

「賢い子の共通点は『読書好き』」と同僚と盛り上がった
(イラスト:田中氏提供)

ここで言う「賢さ」とは、誰かの受け売りではなく、自分の考えを豊かな語彙力で表現できること。例えば、学校行事などの振り返りに「面白かった」「楽しかった」と端的に書く子が多いですが、本を読んでいる子ほど、より具体的に書きます。物語を自由に書いてみようという場面でも、表現が魅力的だと感じることが多い。

だから、僕は「書く」というアウトプットのためには「読む」というインプットが大事なのかなと思っています。実際、「作家の時間」と「読書家の時間」は両輪で回すと相乗効果があると感じます。

普段読まない本に手を伸ばすように!

――「読書家の時間」は、具体的にどんな実践なのですか。

目指すゴールは、自ら本を手に取って読書に取り組む「読書家」の育成です。だから、日常的に授業に取り入れることが大切。多くの学校では図書館を利用した「図書の時間」を設けていますが、僕はそれとは別に週に1コマ程度を使って「読書家の時間」を行っています。

「ワークショップ」(体験学習)を基本とし、教員の主導ではなく子どもたちの意見で授業をつくっていきます。「ミニレッスン(10分)」→「ひたすら読む(25分)」→「読書を振り返る・共有する(10分)」というのが1コマの流れ。この体験学習サイクルを通して、読書への興味を高めていきます。

「ミニレッスン」では、本に積極的に関わるための知識や技法を学びます。例えば、「選書」。どうやって本を選んでいるのかということについて、子どもたちが発表し合います。シリーズを制覇する子、同じ著者の本をひたすら読む子、表紙のデザインで選ぶ子など、35人いれば5~6種類の選び方は出てくるでしょう。すると、子どもたちは「あの子の選び方で本を選んでみようかな」と、いつも読まないような本にも手を伸ばすようになります。

ミニレッスン「選書」の板書

教科書は物語や説明文が多く、伝記やエッセー、図鑑などに触れる機会が少ないので、「ジャンル」を学ぶ「ミニレッスン」もやっています。各自が好きなジャンルを発表していくだけですが、これも「面白そう!」と興味を持つ大きなきっかけになります。現在2年生の担任をしていますが、ジャンルを学んだ後に、歴史好きな子同士で漫画版と小説版を貸し借りするなどの機会が生まれています。

「本の紹介」もよくやります。お互いにお気に入りの本を紹介したり、本の帯を書いて教室に飾っておいたりすると、子どもは興味を持って紹介された本を手に取りますよ。僕からも毎回、本の紹介をします。冒頭の数ページを読み聞かせ、本の概要を紹介。そして「この本を読んでみたい人?」と聞くと、どっと手が挙がります。なるべく、普段そのジャンルを読まない子に貸してあげるようにしています。

引っ越しが大変でもつねに「読書コーナー」を作る訳

――どのような本を紹介していますか。

教室に本を置いて「読書コーナー」を作っているのですが、そこから選んでいます。「読書家の時間」を広めた実践チームの1人、甲斐崎博史先生と同僚だった際、先生の教室内の蔵書数に驚かされました。「手を伸ばせば本がある環境をつくることで、自然と本を手に取る子が増えるよ」と聞き、僕も少しずつ教室内に本を増やしていきました。現在、蔵書は1000冊以上あります。

教室とは思えない、本格的な読書コーナー

世界的な名作を確保するほか、『若おかみは小学生!』(令丈ヒロ子著)や『ミルキー杉山のあなたも名探偵』シリーズ(杉山亮著)など、図書室でなかなか借りられない人気作もそろえています。シリーズものはなるべくそろえ、人気著者の作品も多く集めるようにしています。とくに人気の作品は、同じものを何冊もダブらせて買います。そうすると、同じ本を読んだ子同士が集まって、本の内容で盛り上がれるからです。

――本は自腹を切って購入されているのですか。

はい。でも中古書店なら1冊当たり100円くらいで買えますよ。毎月少しずつ数年かけて集めました。ただ、僕はフリーランスで在校期間が短いことも多いため、異動のたびに大量の段ボールを車で何往復も運ぶのは大変です……。

でも、これだけ蔵書があると、どんどん本を手に取る子が増えます。一方、それでも読まない子はいるので、少しでも興味が持てるよう、紹介以外にも、シリーズで並べるなど見せ方も工夫するようにしています。

カラーボックスなど備品も自腹(左)。ディスプレーも工夫(右)

――「読書家の時間」では、教科書はいっさい使わないのでしょうか。

国語の時間に扱った教科書内の作品に関連した本を紹介することはあります。例えば、『スイミー』を学習した後に、著者のレオ・レオニの作品をズラッと並べるだけで、子どもたちは「こんな本もあるんだね」と大喜びです。

レオ・レオニの作品を集めたコーナー

教科書で物語『きつねのおきゃくさま』(あまんきみこ著)を学習した際には、キツネが登場する物語をたくさん紹介し、ほかの本ではキツネをどう扱っているかをみんなで考えます。

童話では、ずる賢い生き物として扱われることが多い。ダイバーシティー(多様性)を扱うディズニーのアニメ『ズートピア』を見たことのある子も、そんなイメージを持つ子が多いですね。日本の民話では「化けて人をだます生き物」というイメージで描かれる作品ばかり。一方、『チロヌップのきつね』(高橋宏幸著)、『子ぎつねヘレンがのこしたもの』(竹田津実著)、『ともだちや』(内田麟太郎著)のキツネにはまた違う一面があります。

こんなふうに同じ登場人物(生き物)という軸でさまざまな作品を楽しんでいるうちに、作品や著者によって扱われ方が異なるといった多様性に気づく力も身に付いていく。こうしたリテラシーが養われるのも読書の大きなメリットです。

そのほか、仲間と同じ本を読んで感想を述べ合う「ブックトーク」や、本に書いてあることを実際にやってみる「ブックプロジェクト」などのミニレッスンも実施しています。

「ブックプロジェクト」の板書

「ミニレッスン」をやったら、残りの時間はひたすら好きな本を読む。落ち着いて読めるよう、「廊下でもいいし、床に寝転がってもいいよ」と伝えています。本を読む時間はたった20~30分ですが、子どもは続きが読みたければ休み時間も読むし、家に帰っても読みます。週に1コマでも集中して本を読む時間をつくってあげることで、本を読まない子にも読書習慣ができたらいいなと思っています。

最後は、読んだ本について何人かにコメントしてもらったり、一言の感想を書いて読書記録を残したり、振り返りをして1コマが終了です。

「楽しいから読む」が読書の真理だ

いわゆる学校の推薦図書は、年齢を想定して選ばれることが多いですが、実際は分厚い本を読む1年生もいれば、絵本ばかり読む6年生もいます。子どもによって読む本がかなり異なる実態を考えると、「読書家の時間」のようなワークショップのほうが選ぶ本の幅はより広がると僕は思います。

「読書って何のためにするの?」と子どもたちに聞くといろいろと答えは出てきますが、「楽しいから読む」でいいんですよね。それが読書の真理だと思います。本の世界観を純粋に楽しむことが大事で、その楽しさがわかった子は自分から本を読みます。

読む本に偏りがあっても構わない。大人でも博学なのに小説を読まない人はいるし、絵本ばかり読む人もいますよね。教科書的な読み方も大切ですが、「もっと読みたい」という気持ちを育てることのほうが大事。読みたい本の世界に浸れる子に育っていくといいなと願い、僕は「読書家の時間」を実践しています。

最近では、知識量ではなく学ぶ意欲が学力だという考え方もあり、「自ら本を読む=学力が高い」と言ってよいのではないでしょうか。実際、文科省の調査のように読書と学力に関するエビデンスも出てきています。

もちろん、賢いから本を読むのか、本を読むから賢いのかは、簡単には判断できません。経験によって考える力がついて本を読むようになる人もいるでしょう。ただ、読書を楽しむ力は、人を豊かにしたり学びに興味を持つ契機になったりすることは間違いないと思っていて、「読書家の時間」はその力を育てるのに有効だと感じています。

田中光夫(たなか・みつお)
1978年生まれ、北海道出身。東京都の公立小学校教員として14年間勤務。2016年、主に病気休職の教員の代わりに担任を務める「フリーランスティーチャー」となる。これまで公立・私立合わせて延べ11校で講師を務める。NPO法人「Growmate」理事としてマーシャル諸島で私設図書館建設にも携わる。近著に『マンガでわかる!小学校の学級経営 クラスにわくわくがあふれるアイデア60』(明治図書)

(文:編集チーム 佐藤ちひろ、写真はすべて田中氏提供)