新学期がスタートして約1カ月。いかがだろうか。子どもたちも先生たちも、疲れてなければよいが……。

新学期早々は、給食のあとに下校とするなど、ゆったりめのスタートとしている学校もあれば、通常に近い授業数で始めている学校もあってさまざまだが、子どもたちと教職員の多忙や疲れに大きく影響するのが、授業時間の多い、少ないの問題だ。

ちょうど現在、中央教育審議会(以下、中教審)では、各校のカリキュラム(教育課程)の土台となる学習指導要領の改訂に向けた検討が進んでいる。今回は、授業時間について考えてみたい。なお、高校・高校生についてもこの問題はとても重要で、とりわけ普通科では授業時間が多い傾向がみられるが、今回は小・中学校を中心に扱う。

妹尾昌俊(せのお・まさとし)
教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表
徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年に独立。全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。学校業務改善アドバイザー(文部科学省委嘱のほか、埼玉県、横浜市、高知県等)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。Yahoo!ニュースオーサー。主な著書に『校長先生、教頭先生、そのお悩み解決できます!』『先生を、死なせない。』(ともに教育開発研究所)、『教師崩壊』『教師と学校の失敗学』(ともにPHP)、『学校をおもしろくする思考法』『変わる学校、変わらない学校』(ともに学事出版)など多数。5人の子育て中
(写真は本人提供)

小4以上は、ほぼ毎日6時間目まで

全国の小中学校は、どのくらいの授業をしているのだろうか。文科省によると、2024年度の計画段階については、2022年度の計画と比べると、授業数が比較的少ない学校は増える傾向にあるものの、小学校4年生以上(中3まで)では週29コマ以上の学校が多い。

月曜から金曜まで1日6時間×5日なので、大きな学校行事や定期テストの時期などは除いて、平常時はほぼ毎日6時間目まで授業がある。

2024年度計画時点の週当たり授業時数

出所:文科省「令和6年度公立小・中学校等における教育課程の編成・実施状況調査の結果について」

以前と比べてどうなのか。東京学芸大学 教授の大森直樹氏の研究によると、以下のとおり、ここ30年ほどで1日あたりの授業時間は増えている。

出所:大森直樹研究室「標準時数の変遷に関する調査―結果と提言―」教育文化総合研究所

子どもたちはどう感じているか

こうした授業時間を多いと見るか、少ないと見るかは、当然、人によって違ってくる。個人的には「毎日6時間も授業があるとだるいな、もっと自由にさせてあげたらよいのに」と思うところもあるが、子どもによっても感じ方はさまざまだし、授業の中身や進度にもよる。

授業がつまらない(わからない、あるいは簡単すぎる)と6時間もあるのは苦行だが、興味・関心を引き付けるものなら楽しいものだろう。

文科省が2023年に実施した調査(「義務教育に関する意識に係る調査 概要・集計結果」)によると、授業時間については「ちょうどよい」という児童生徒が最も多く、学年ごとに異なるが6割前後である。ただし、3~4割の児童生徒が「多すぎる」または「やや多い」と回答している。

学習量や授業時間についての児童生徒の負担感

注:全国の公立小学校60校、公立中学校58校を無作為抽出、児童生徒43,308人、教員2,978人が回答
出所:文科省「義務教育に関する意識に係る調査 概要・集計結果」

一方、日本大学 教授の末冨芳氏が、2024年3月に中学生(中1・2)と高校生(高1・2)それぞれ1000人に実施したアンケート調査よると、「通ってみたい学校」として、「一週間にある授業の数が今よりも少ない」について「そう思う」49.2%、「ややそう思う」25.3%で、約75%に上っている。

こうした調査をみる限り、現状の授業時間で強い不満がない層も少なくない反面、負担感のある子たちもいることがわかる。ただし、暗数、統計には現れにくい実態にも注意を払う必要がある。

不登校の児童生徒は近年増加傾向にあり、2023年度の長期欠席の児童生徒数は約49万人に上る。学校が楽しいかといった内容の調査を長期欠席の子たちに送付するのは配慮が必要だろうが、回答していない子たちがいる可能性も高いのではないか。

以上は、推測を含むので断言はできないが、不登校やその傾向のある子たちに聞くと、授業の多さや内容をより問題視する可能性はあるだろう。

先生たちはどう見ているか

次に、教員はどう感じているだろうか。先ほどと同じ文科省調査によると、授業時間について、小学校では約5割、中学校では4割強が「多すぎる」「やや多い」と回答している。「ちょうどよい」という回答もかなりの割合に上るが、小学校のほうが負担感は強い。

学習量や授業時間についての教員の回答

出所:文科省「義務教育に関する意識に係る調査 概要・集計結果」

授業時間数に影響するのが、文科省が定める学校教育法施行規則だ。年間、国語は何時間、算数は何時間計画してくださいね、といったルールがあり、「標準授業時数」と呼ばれている。

前述の大森研究室では、過去数回の学習指導要領下で勤務経験のある小学校教員にアンケート調査を行い、487人の回答結果を集計している(直近4期の経験者に限定、調査実施は2023年7~9月)。「標準時数は子どもの生活にあっていたか」という質問については、否定的な回答(やや合っていなかった、合っていなかった)が新しい指導要領ほど高くなっており、現行(2017年改訂)では約9割が否定的である。

授業時間数と子どもの生活との関係(教員向け調査結果)

出所:大森直樹研究室「標準時数の変遷に関する調査―結果と提言―」教育文化総合研究所

現状に不満をもっている人が回答しやすいことや、昔はよかったというバイアスが働いている側面もあるものの、この調査をみる限り、現行の学習指導要領は、小学校教員に負担感がたいへん大きいと言えよう。

悲痛な声も多く寄せられている。自由記入から一部抜粋しよう。先生たち自身の負担だけでなく、子どもたちへの影響を心配する声も多い。

授業時間数等に関する小学校教員の声

〇週休2日制の前の隔週で土曜日が休みの時は、余裕があったような気がします。今、時数に踊らされて、精神的にも体力的にも、一日の余裕が無くなっているような気がします。

〇教育委員会より、標準時間数を超えなければ、次年度の夏休みを削って授業時数を確保するなどと言われた。毎年、大幅にクリアしているのにもかかわらず、インフルエンザ、コロナ感染のため学級閉鎖などがあることを考えて、結局は削る事はなくて必死にほぼ毎日6時間授業を網羅する。結局子どもたちもしんどそうにするだけ、午後に国語や算数の授業はきついため、午前中に5教科が偏る。毎日6時間目までとなると、放課後はすでに定時退勤時間間近のため、定時に帰ったことが、余程の用事がある時以外ない。授業準備ができない。

〇とにかく時数が多すぎます。習い事、塾など、放課後も忙しい小学生。今は4年生でも水曜以外は6時間授業、水曜日も5時間授業とへとへとです。教員も空き時間は音楽専科の2時間のみ。週27時間の授業は準備する時間が取れません。中学校と違い、同じ授業を二度やれないので準備が追いつきません。それだけではない教員の仕事も多く、学年が1、2クラスしかない超小規模校では、校務分掌も多いのです。

〇まったくのゆとりなし。子どもとのゆとりの中での何気ない会話なし。なぜなら、授業間も授業の準備。早く下校を促さないと、会議あり、打ち合わせあり、退勤せまられる中、学校の施錠を任されて、授業準備。時間外多すぎと言われ、ひどい話です。子どもにいいことありません。

〇平日の授業時数が多い、子どもたちに余裕がなく疲れ切っている。

〇外国語にせよ何にせよ、やったほうがよいという思いで増やすばかりなため、今までの時間割では限界が来るのは目に見えていたと思う。学校ごとに業間休みや昼休みを削ったり、予備時数を調整したりと苦肉の策を行っているが、児童(特に特別な支援を要する児童)の負担感は増している。負担感が増している状態で、授業が充実するわけがないと思う。

 

出所:大森直樹研究室「標準時数の変遷に関する調査―結果と提言―」教育文化総合研究所より一部抜粋

また、特定非営利法人School Voice Projectが2024年12月~25年2月にかけて教員向けに調査したものによると、各教科での学習指導要領の内容について「多い」「やや多い」と感じる教員は、小学校では、外国語(ほとんどの学校で英語)、国語、算数、道徳、総合、社会などで多く、これらの教科では7割以上が「多い」、「やや多い」と感じている。

学習指導要領の内容量について(教員向け調査結果)

出所:特定非営利法人School Voice Project

ほぼ毎日6時間授業のままでいいか?

文科省調査とそれ以外で、調査方法や対象も異なるので、やや違った結果ではあるが、どう理解、解釈していけばよいだろうか。私は、次のように考える。

〇現行の授業時間数でもあまり負担に感じていない小中学生も少なくないが、おそらくその層は、授業時間が多少減ったとしても不満には感じないし(むしろ喜ぶ子たちもいるだろう)、中には自学などで興味関心のあることを進められる子もいる。現状ではつらい、しんどい子どもたちの負担を減らす政策、制度を考えたほうがよいのではないか。

〇授業に関わる子どもたちの満足度や自己効力感、ウェルビーイングは、授業時間や学習量だけの問題だけではなく、内容の難易度や進め方、教員の関わり方、子ども同士の関係性、教室・学習環境など、さまざまな要素が絡む問題であるが、授業時間と学習量の影響は無視できない。

〇教員の感触としては、多くの教科をこなす小学校において、とりわけ負担感が大きい。授業準備が十分にできない状態では、授業の質にも関わるし、教員人気もマイナスになる。

〇もっとも、授業時間や学習量を減らすことには、功罪がある。例えば、授業時間が減っても、学校外学習(学習塾や習い事、学童保育)などが増えるだけで、子どもたちの福祉、ウェルビーイングによりよいものかどうか、教育格差が広がることにならないかなどは慎重に考えていく必要がある。もちろん、いいことづくしの政策はないので、想定される副作用や弊害については、予防・緩和できる対策を併せて考える必要がある

※ 例えば、教育格差拡大が懸念されるならば、経済的に困窮する家庭への支援策や放課後の子どもの居場所づくりへの支援などを強化する必要があるかもしれない。

授業や家庭学習の時間は多ければ多いほどよいとは限らない

関連して、授業時間や学習内容を減らすと、「学力が低下するのでは」と心配する声が必ず出る。

そこでOECDのPISAという学力調査を参照してみたい。15歳(日本では高1)を対象としたもので、日本のランキングが下がった、上がったなどと時々ニュースになる。

日本の経年データを見る限り、学習指導要領の改訂によって小学校・中学校時の授業時間数がもっとも少なかった2012年調査の生徒は、高い点数を出している。小松光、ジェルミー・ラプリー著『日本の教育はダメじゃない』では、「PISAのデータを見る限りでは、ゆとり教育で学力が低下して、脱ゆとりによって学力が上向いたという結論は導くことはできない」と述べている。

直近のPISAの結果も参照してみよう。生徒の学習時間(家庭学習を含む)と学習時間あたりの数学の得点の状況を国際比較したものだ(繰り返すが、日本では高校1年生の状況である点に注意)。OECDのレポートでは「通常の授業や宿題に多くの時間を費やすことが、必ずしも高い成績につながるわけではない」としている。

出所:「OECD PISA 2022 Results (Volume II)」

PISAの結果、それも平均的な状況だけで判断するのは早計かもしれないが、「授業時間の削減⇒学力低下」と反射的に反応してしまうことも問題だろう。

授業時間数を見直す選択肢

ではどうするか。授業時間数を見直すためには、いくつか選択肢がある。

〇国が定める時間数(標準授業時数)を減らす。

〇教育課程の特例制度(「研究開発校」や「学びの多様化学校」)を活用すること、また活用しやすい制度にすることで、キツキツのカリキュラム編成を見直す。

〇国が定める授業数よりも多めに計画・実施していること(いわゆる余剰時数)を、各学校、教育委員会で減らす。

〇夏休みを多少短くするなどして、授業日を多くとることで、平日5時間までの日などを増やす。

長くなったので、詳述は別の機会にしたいが、上記の選択肢は複数組み合わせることも可能だ。もちろん、それぞれにメリット、デメリットがあり、心配な副作用もしっかり考慮する必要がある。

今回は、小中学生が毎日6時間目までの授業でいいのか、について、議論するうえで参考になりそうな声や状況をみてきた。授業時間は維持する、あるいは削減する、いずれにしても、そのこと自体が目的化してはいけない。

何のために見直すのか。今の授業量では合わない子、しんどい子たちのためなのか、あるいは、探究的な学びを増やすためなのか、もしくは教員の負担軽減のためなのかなど、目的に立ち戻って検討していきたい。

また、時間だけを減らしても、教科書が厚く、入試で細かいことまで対策しないといけないようでは、いま以上につらくなる子も先生も増える可能性が高い。そうしたことにも関連する、身近で、けっこうややこしい問題だ。子どもたちの時間割には、いろいろな問題が透けて見える。

(注記のない写真:コト / PIXTA)