不登校が過去最多を更新、1年で4万7000人増加
最新の不登校児童生徒数が発表になりましたが、過去最多といわれた前年度からさらに4万7434人(15.9%)も増加し34万6482人。11年連続の増加となっています。これは、文科省の不登校の定義に当てはまる数なので、不登校気味だったり、登校はするが教室には入らない子どもも含めると、潜在的な数はもっと多いと思われます。
さらに、基本的には教室で過ごし、皆と同じことをしているが、「毎日心の中では学校に通いたくない・学校がつらい・嫌だと感じている」形だけ登校の子どもたちも、不登校の子どもと同程度いるといわれています(カタリバ「不登校に関する子どもと保護者向け䛾実態調査)。
不登校の理由はさまざまですが、小中学生共に無気力や不安が最も多く、「学校に行こうとすると体調が悪くなる、疲れる」など不登校の子は「体調に異変をきたす」項目を多く選択しています。
日本の小学生の98.1%が公立小学校に通っており、日本全国どこにいても同じ教育が受けられるというよさがある一方、この選択肢の少なさが不登校の増加など、さまざまな問題へとつながっている面もあるでしょう。
新しい選択肢の学校も増加
不登校の児童生徒の増加に呼応するように増えているのが、フリースクールやオルタナティブスクールなど学校外の居場所や学びの場で、全国に500以上あるといわれています。
両者の定義は明確ではありませんが、フリースクールは不登校支援を主な目的としており、傷ついた子が、不安を刺激されずにいられる家庭外の居場所。それに対してオルタナティブスクールは、「オルタナティブ(alternative)」が「主流の方法に代わる新しいもの」という意味なので、公立でも私立でもない、フリースクールでもインターナショナルスクールでもない、「新しい選択肢の学校」ととらえます。
昨今、従来の画一的な教育から距離を置き、「子どもたちの個性やクリエイティビティを大切にしながら、不確実な社会を生きていく力を身に付けよう」というビジョンを掲げる新たなオルタナティブスクールが続々と誕生していて、不登校だけでなく、既存の学校に疑問を持つ保護者の関心を集めています。
とはいえ、新しい選択肢であるオルタナティブスクールを選ぶ人はまだまだ少数派。「それぞれのスクールにはどういう特徴があるの?」「どこのスクールも魅力的だけど、どんな基準で選んだらいいの?」「リアルな話を聞いてみたいけど、身の回りに通わせている保護者がいない」という声もあるということで、初めて全国のオルタナティブスクールが集まったフェスが開かれたので、その様子を取材しました。
今回のフェスは、「ほんものの探究学習を日本中の子どもたちに届ける」をミッションに活動している探究コネクト主催、「オルタナティブスクールを身近な選択肢にする」ことをミッションにして設立された一般財団法人オルタナティブスクール・ジャパン(以下、ASJ)の協力によって、2024年11月15日に開催されました。
今回の主催者でもある探究コネクトの炭谷俊樹さんは、神戸で28年間にわたってラーンネット・グローバルスクールというオルタナティブスクールを運営。一人ひとりの子どもたちをつぶさに観察し、彼らの学習意欲を高める接し方について研究・実践し、本連載でも取り上げた「探究ナビゲータ講座」も主催する探究教育の先駆者です。
フェスでは、まず炭谷俊樹さんとインフィニティ国際学院副学院長の伊藤研人氏、ASJ理事長で湘南ホクレア学園代表の小針一浩氏から、なぜ今オルタナティブスクールが注目されているのか、小学校時代から探究する大切さ、卒業後の進路、進学、運営者について説明がありました。
少子化・大学入試の変化 選ばれる時代から選ぶ時代に
オルタナティブスクールが注目されている理由について炭谷氏は、少子化・大学全入時代という社会と教育の変化をあげ、学びの選択肢が多様化し、試験で選ばれる時代から、一人ひとりが自分に合った教育を選ぶ時代になったと言います。
すでに、私立大学の半数以上が定員割れしており、炭谷氏の言うように、受験生が大学を選ぶ時代に入っていると言えるでしょう。また、時代の変化とともに、大学入試もペーパーテストによる一般入試から、面接や小論文などで生徒の多面的な力や意欲を見る総合型選抜が広がっているのは、周知の通りです。
この背景には、大学側のより早く優秀で意欲のある学生を確保したいという思惑があるのは確かですが、それだけでなく、大学の質保証の認証評価でも、各大学独自の「アドミッションポリシー」を明確にしてそれにふさわしい選抜方法を取ることが国から求められており、大学入試のあり方がこれまでとは変わってきているのです。
一方、高校も通信制高校に進学する生徒数が年々増加しており、今年度の速報値で29万118人で、11人に1人の割合になっています(文部科学省「令和6年度学校基本調査(速報値)」)。
以前の記事でも書いたとおり、通信制高校が、上記の「不登校」また「不登校傾向」の生徒の受け皿になっているのは、間違いありませんが、急激に伸びている理由はそれだけではありません。コロナ後、学ぶ環境が大幅に変化し、一律の環境の中で過ごすことに抵抗を感じる生徒が増加したことも大きいでしょう。
通信制高校では、教科書による教科学習の時間を最低限にして、自ら興味のあることを探究する時間を多くとっているところが多いです。かつて、日本の教育改革は大学入試改革から始まると言われていましたが、それが社会構造の変化とともに加速しているのです。
選択肢が一番少ない小中学校に風穴をあける
そんな中、選択肢が最も少ないのが義務教育で、そこに風穴をあけるのがオルタナティブスクールなのです。
どのスクールも、画一的な一斉授業が中心の学校教育システムやペーパーテストで測られる偏差値型の目にみえる学力を重視する従来型の教育に疑問を持つ人たちが立ち上げているので、主体的に学ぶ力を育むことを重視しています。
学習指導要領に準拠する必要がないので、カリキュラムの自由度や学びのスタイルも多様ですが、自由進度学習や探究、自分の好きを見つけるマイプロジェクトの時間をとっているところが多いです。また、グローバル社会に対応するための英語の時間や海や川、山、公園など、スクールの立地を生かした独自のプログラムを実施するところ、モンテッソーリやイエナプランなどをベースにした教育を行っているところもあります。
小学校時代から探究をする重要性について、28年間の経験から炭谷氏は、「大切なのは、目に見えづらい力。余白を持って主体に取り組み、人と協力することで自己効力感が高まり、幸せで納得いく人生を送る根っこが育める」と言います。
しかし、今の子どもたちは、目にみえる学力を身に付けるために、塾や習い事で忙しく、まるで栄養ドリンクを飲みながら頑張っているようだと指摘します。
多様な人材が、教育の選択肢を増やす
各スクールの運営者は、元公立小中学校の教員経験者から、ビジネスパーソン、子どもが不登校になった経験を持つ母親まで実にさまざまです。
例えば、ASJ理事長の小針氏は、元ビジネスコンサルタント。自身の子どもの小学校入学を前に、子どもを行かせたい・子どもも行きたい学校が見つからず、ないなら創ろうと決意。
地球環境が危機に瀕する中、子どもたちが働き盛りになる2050年を念頭に、「どんな世界でもサバイブできる子を育てる!」をミッションに掲げて湘南ホクレア学園を立ち上げました。そして、「世界中のどこでも仲間をつくれる“コミュニケーションスキル”」「世界のどこでも新しいことをはじめられる“起業スキル”」「世界のどこででも暮らせる“アウトドアスキル”」を身に付けることを目指しています。
ちょっと毛色が違うのは、逗子オルタナティブスクールFRASCO。小学4年生から中学3年生までを対象としたスクールです。代表の中村真弓氏は、働きながら子育てをしていたが自身の働き方にモヤモヤし、ウェルビーイングを人生のテーマに生きようと決意して独立。
時を同じくして中学生の子どもが不登校になり、中学生は不登校になると行き場がないことを実感。中1ギャップを経験したことから小中学校接続の大切さを痛感し、小学4年生から中学3年生までのオルタナティブスクールを事業として立ち上げました。
どちらも、近隣の先輩格ヒミツキチ森学園を見学に行き、背中を押されて開校したスクールです。
インフィニティ国際学院中等部と高等部は、「世界で学べ」という理念のもと、日本と世界を舞台に生きる力を育むため、中等部では町全体を活用した全寮制タウンキャンパスで探究学習を、高等部では世界を旅しながら実践的なフィールドワークを通じて、子ども一人ひとりの個性を引き出します。社会に直結する力を育むスクールですが、その背景には世界を見てきたからこその危機感があるようです。
インフィニティ国際学院の伊藤氏は、「今は人類が初めて経験する変化の時代、安定の意味が逆転している」と言います。そして、自身が海外を旅して歩いた経験から、世界ではすでに大変化が起きていて、日本にもこれからその波がもっと激しく押し寄せてくる。その時に必要なのは、自ら学び、つかみ取っていく力だと訴えます。
スクールの理念に共感できるかが大事
一方、オルタナティブスクールを選ぶ保護者も、既存の学力観に疑問を持ち、子どもの個性を最大限に伸ばしたいと願っている人が多いと小針氏。
どんな子が合っているかという質問には、「一人ひとりに合わせていくので、不向きな子どもはあまりいないが、最も大切なのは、保護者が理念に共感できるかどうかだ」と言います。オルタナティブスクールでは、保護者も子どもを預けるという意識ではなく、スクールとタッグを組み、共にあゆむ姿勢がより重要になるのです。
卒業後の進路については、28年の歴史がある炭谷氏から、例えば探究の時間にひたすら穴を掘っていた子どもは外資系のコンサルタントに、「忘れ物キング」が世界レベルの「スーパーエンジニア」に、不登校だった少年が22歳で牧場の経営者になるなど、進路は多様。また世界を旅する学校、インフィニティ国際学院では、国内外の大学に進学していくケースが多いということでした。皆それぞれ自分の好きなことやりたいことを見つけているようです。
今回のフェスの参加者150名の属性は 教育実践者・教育関係者 と保護者が半々。教育業界以外の社会人や学生の参加もありました。
筆者が話をした保護者の1人は、広島在住の幼稚園児を持つ母親で、子どもが幼稚園になじめず、公立小学校への進学に不安があるが、近隣にはほかに選択肢がなく、よいスクールがあれば移住も考えたいと話していました。
子どもが育つ環境について真剣に模索する親にとって、オルタナティブスクールは前向きな選択肢の一つとなるのでしょう。
地方ほど選択肢は少ない、協力して第3の選択肢を増やす
しかし、地方に行けば行くほど、公立以外の選択肢はないのが実情です。
今回参加しいていた一般社団法人うみかぜ SOTOBOコミュニティスクールのレイブン澄さんも、千葉県一宮町在住で、自分の子どもに探究教育を体験させたいと思ったが、通えるところには多様な学びを提供するスクールがないので、思いを同じくする仲間と立ち上げたそうで、現在は週1回活動しています。このように、自分たちで立ち上げたいと考える人たちにとっても参考になるイベントでした。
今回、フェスに参加したのは東京、神奈川、大阪、兵庫、福岡、北九州の11スクール。
立ち上げの経緯も、年数も、背景も、理念もさまざまですが、印象的だったのは、フラットに協力し合って、子どもたちの学びの選択肢を増やしていこうという意識が強いことです。
「立ち上げたときには、モデルもないし、手探りでつくるしかなかった」という炭谷氏。
28年経って全国に仲間ができて嬉しいと語ります。そして、小針氏の発案で「オルタナティブスクールを身近な選択肢にすること」を使命にした一般財団法人オルタナティブスクール・ジャパン(ASJ)が設立され炭谷氏も理事としてジョインしました。
ASJは、ロールモデルとなるオルタナティブスクールが47都道府県に開校することを目指し、使命をまっとうして、財団が解散することをゴールに、活動を開始しています。今後は、スクールの開校サポートと経営支援、オルタナティブスクール同士がつながって学習や探究のプログラム作りなどを行っていきます。
10年ほど前に視察したオランダは、憲法で教育の3つの自由が保障されていました。
設立の自由
理念の自由
教育方法の自由
です。視察に訪れた中にも、既存の学校に適応できない子どものために保護者が中心となって運営している学校がありました。国としてのゴールが定められており、基準を満たせば方法は自由。専門家のサポートもつきます。その結果、子どもの幸福度世界一の国になっているのです。多様な宗教や民族を受け入れている国ならではだと思いましたが、今後日本も多様性を尊重していかなければ国の存続すら危ういでしょう。
教育は国の未来をつくる仕事です。今の子どもたちが働き盛りになる2050年の世界を見据えて、日本が幸せな国として発展していくことを願いたいと思います。
子どもたちがその子らしく成長していけるように、日本にも学びの選択肢を増やしていきたい、地元にも多様な学びの機会を作りたいと考える人はASJに問い合わせてみてはいかがでしょうか。
今回のフェスに参加したスクールと団体は以下の通り。詳細は直接お問い合わせください。
CAN!P school
湘南ホクレア学園
一般社団法人うみかぜ SOTOBOコミュニティスクール
逗子オルタナティブスクールFRASCO
東京コミュニティスクール
ヒミツキチ森学園
HILLOCK初等部
箕面こどもの森学園(認定NPO法人コクレオの森)
モンテッソーリ・エレメンタリースクール北九州
ラーンネット・グローバルスクール
探究コネクト
一般財団法人オルタナティブスクール・ジャパン
(注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)