休むのも仕事のうち!たまにはゆっくりした時間を

2021年もあと残りわずかですが、この2学期はとくに忙しかったという先生たちの声を多く聞きます。新型コロナウイルスの影響もあって修学旅行や運動会など、大きな学校行事が軒並み秋に集中したり、GIGAスクール端末が普及する中でトラブル対応も増えたり。また、年度途中で産育休の先生や病気休暇・休職を取る先生が出ても、その代わりの講師が見つからず、通常の人数より少ない体制で、何とかやり繰りしている学校も多いです。

部活動も緊急事態宣言が明けてからは、例年どおり活発に活動しているところが多いです。大会の運営などにも多くの教師が駆り出されています。通常、多くの大会やコンクールは、献身的な教師たちに支えられているのが実態ですが、これまであまり注目されてこなかったように思います。そのうえ、いじめや深刻な生徒指導上の問題などが起これば、学校はてんやわんやになります(そうした問題が発見されることは、ある意味望ましいことですが)。

コロナ禍で医療や福祉の現場も本当に大変な一年でしたが、教育現場ではコロナ前も後も、休校中を除けばずっと過重労働が続いています。いわゆる「過労死ライン」を超えて働いている人も多くいます。

ちょっとでもリフレッシュできるように、年末年始は長めに学校閉庁日(日直を置かず、勤務を要しない日にする、部活動も休む)にする自治体がもっと増えたらよいのに、と思います。例えば12月27日~1月5日を閉庁日にすると、土日、正月も合わせて12連休になります。閉庁日を増やしても追加予算はかかりませんし、教育委員会の皆さん、今からでもやりませんか?

たまにはゆっくりした時間を持って、本や映画などから着想を得て、いろいろ考えたり、少し遠出して見聞を広めたりしてはいかがでしょうか。休むことに罪悪感を持つ先生もいますが、休むのも仕事のうちといえるかもしれません。

妹尾昌俊(せのお・まさとし)
教育研究家、合同会社ライフ&ワーク代表
徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年に独立。全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。学校業務改善アドバイザー(文部科学省委嘱のほか、埼玉県、横浜市、高知県等)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。Yahoo!ニュースオーサー、教育新聞特任解説委員、NPOまちと学校のみらい理事。主な著書に『教師と学校の失敗学 なぜ変化に対応できないのか』(PHP新書)、『教師崩壊』(PHP新書)、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』(教育開発研究所)、『学校をおもしろくする思考法 卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』『変わる学校、変わらない学校』(ともに学事出版)など多数。5人の子育て中
(写真は本人提供)

残業や勤務実態の「見えない化」が進行

リフレッシュできる休暇はあったほうがよいですが、もちろん、それだけでは駄目です。平常時の忙しさを解消していく必要があります。ところが今、各地の学校、教育行政では問題が見えにくくなっているのです。どういうことかというと、残業や勤務実態の「見えない化」が進行しています。

今年、熊本県教職員組合が実施したアンケート調査(2170人が回答)によると、勤務時間(在校等時間)を小学校教員の約39%、中学校教員の約47%が「正確に記録していない」と回答しています(質問は「時間記録後に残業したり、休日に学校で仕事をするときに記録をしなかったり、部活時間を記録しなかったりすることはありますか?」)。理由を聞くと、

・正直につけたとしても、とくに今まで抜本的な改善策があったわけではない
・面倒くさい
・みんなしていないから
・休日出勤しても、校長より記録をしないように指導されています
・休日は誰も打刻しません。校長も知っていますが、暗黙の了解という感じです

といった回答もありました(文意を変えない範囲で一部編集)。また、同アンケートによると、約65%の教員が自宅などに持ち帰り仕事をしていると回答。この部分も残業の「見えない化」となっています。

こうした傾向は程度の差はあれ、あちこちで起きています。例えば、岐阜県教職員組合が2020年12月~21年1月に実施したアンケート調査(396人が回答)でも、小学校教員の25.0%、中学校教員の20.0%、高校教員の40.4%、特別支援学校教員の20.4%が時間外在校等時間を「あまり正確に申告していない」「ほとんど正確に申告していない」と回答しています。

公立学校だけでなく、私立学校や国立付属学校でも似た問題が起きているところもあります。

悪いことだらけの虚偽申告、過少申告

こうした残業の「見えない化」は、学校特有の問題ではありません。企業などでは、パソコンの起動時間と出退勤データが大きく乖離している場合は、調査をするところもあります。しかし働き方改革を進める中で、業務量自体を減らさなかった企業や役所では、この「見えない化」が以前より深刻になっていることは珍しくありません。

だからといって、学校でも「勤務記録なんて適当でいいんだ」ということにはならないですし、労働基準法や労働安全衛生法に照らしても大きな問題です。1カ月の時間外労働が45時間や80時間を超えると、「教育委員会や校長から指導が入る(怒られる)」「医師と面談しろと言われても、忙しい日々で面倒だ」という気持ちはよくわかりますが、学校ではとても深刻な問題をはらんでいます。ここでは3点に整理します。

第1に、勤務実態が見えなくなるため、教育委員会や校長の問題解決に向けた動きが鈍くなったり、施策を打たなくなったりするリスクが高まります。

今やどこの教育委員会でも、程度の差はあれ、あるいはまだまだ十分ではない点もあるとはいえ、学校の働き方改革には取り組む姿勢を見せています。ほとんどの都道府県等では推進計画が作られています。が、モニタリングしている勤務時間が過少で、一見したところ、学校が改善していると観察される場合、教育委員会や校長の多くは「少し前までは働き方改革とやかましく言われていたけれど、もうだいぶ進んだな」「自分たちの施策はそれなりに功を奏しているな」と安心してしまいます。

その結果、働き方改革は骨抜きになるか、トーンダウンしてしまうでしょう。補助的なスタッフや部活動指導員など予算措置をしていたものも廃止・削減されるかもしれません。

私は、教職員向け研修などで、タイムカード・ICカードなどは「ダイエットしたい人にとっての体重計みたいなもの」とよく申し上げています。体重計に乗るだけではダイエットになりません。運動や食事に気をつけたりすることが必要なのと同様に、勤務記録をつけるようになったからといって、直ちに負担軽減が進むわけではありません。ですが、虚偽申告、過少申告というのは、体重計がおかしいということですから、話になりません。

第2に、教職員と教育委員会(あるいは私学であれば、教職員と学校法人)との間の信頼に溝ができます。

加えて、実態が見えなくなった状態で、教育委員会などは多少安心してカラ元気なわけですから、教職員の多くは「あ~、やっぱり学校で働き方を見直したり、改善したりするなんて、無理なんだ」「教職員数が増えない限り、何をやっても駄目だよね」と思って、職場では諦めムードが広がります。過少申告等の広がりは、現場の無力感につながりかねませんし、無力感が大きくなると虚偽申告も増えるという悪循環になってしまうでしょう。

何のための記録か、適切な補償や支援を受けられない可能性も

第3に、教職員の健康管理上、非常にまずい状態となります。何のために勤務実態をモニタリングしているかというと、それは、文部科学省や教育委員会が求めているからというよりは、教職員の健康、もっといえば、命を守るためです。先ほどの例え話のとおり、体重計がおかしくなっていたのでは、本人も状態や進捗を確認できなくなります。セルフケアがおろそかになります。

しかも、万が一、過重労働のために倒れてしまった、仕事が続けられなくなったというとき、過少申告した記録がベースとなりますから、適切な補償や支援を受けられなくなる可能性が出てきます。「あなたは体を壊して気の毒だけれども、それは仕事のせいじゃなくて、もともとの持病のせいか、不運だったのでしょう」ということにされてしまいます。

実際、教師の過労死などの事案を私は何十件も分析していますが、数年前までの多くの公立学校ではタイムカードすらなく、出勤簿にハンコだけの世界でしたから、過重労働であったということの証明が非常に難しく、10年ぐらい裁判で争っている事案も多いのです。

ですから、過重労働がなくなるのが、もちろんいちばんいいのですが、万が一のときにあなたの家族や愛する人をさらに悲しませないためにも、記録は正確につけたほうがよいです。

さて、児童生徒の間でトラブルや問題が起きると、大抵の先生は当事者の子どもに「正直に話してごらん」と言います。学校の働き方改革を進めるうえで、うそが横行する現実は一日でも早く変えて、正直に話せる職場をつくること、関係者が実態を確認して、しかるべき対策を講じていくことが大事だと思います。

(注記のない写真:Pangaea / PIXTA)