「同一労働・同一賃金」にほど遠い学校現場

突然だが、次のような求人広告があったら、あなたは応募しようと思うだろうか?

・期間限定の雇用。通常は今年度末まで。ただし産育休代替の場合、年度途中で契約終了。
・契約更新(新年度以降などの雇用)はお約束できない(現時点では不明)。
・仕事内容は正規とほぼ同じ。ただし、給与は正規より低くなる。
・残業あり。ただし残業代は支給しない。
・研修期間なし。即戦力となる人材を期待。

 

よほど給料が高かったり、休日が多かったりといった好条件でない限り、おそらく多くの人は応募しないだろう。実際は、そのいずれでもないわけだが……。実は、こうした求人に近いことが行われているのが、教員の世界だ。

ただし、期間限定の雇用と書いたように、非正規職の教員、講師の先生についてだ。「非正規」の定義は、論者によって多少異なることがあるが、ここでは「雇用期間に定めがあること」とする。私立でも非正規への依存が高い学校もあり考えていきたいが、以下では、多少なりともデータで事実確認できる公立学校を中心に扱う。

妹尾昌俊(せのお・まさとし)
教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表
徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年に独立。全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。学校業務改善アドバイザー(文部科学省委嘱のほか、埼玉県、横浜市、高知県等)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。Yahoo!ニュースオーサー。主な著書に『校長先生、教頭先生、そのお悩み解決できます!』『先生を、死なせない。』(ともに教育開発研究所)、『教師崩壊』『教師と学校の失敗学』(ともにPHP)、『学校をおもしろくする思考法』『変わる学校、変わらない学校』(ともに学事出版)など多数。5人の子育て中
(写真は本人提供)

先ほどの求人広告に照らして、実態とファクトを確認しよう。

・非正規職は年度末までなどの期間限定雇用であることが多い。翌年度も雇用される保証はない。
・産育休を取る先生の代わりの場合は、翌年度以降までなどもあるが、その先生が戻ってくると、年度途中であっても、子どもたちとお別れすることになる。
・フルタイムの常勤講師(臨時的任用教員とも呼ばれる)や再任用教員の場合は、仕事内容は正規の教員とほとんど変わらず、学級担任や部活動顧問も担う。保護者にも児童生徒にも、正規か非正規かはわからないことが多いだろう。
・常勤講師の給与水準は自治体によっては正規職とそろえているところもあるが、ある年齢から昇給上限に来たり、正規よりも低い水準に抑えられたりしている自治体も少なくない
・非常勤講師の場合は残業代はつくが、実際は支給されていない自治体も多いようだ。担当する授業時間数に応じた時給となっている場合が多く、授業準備や採点などは時給に反映されないケースも多い。
・正規職と比べて、研修が少ない。もしくはたいした研修もなく、授業や学級運営を任されるケースもある。

※「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」の山崎洋介さんが2012年度の大阪府の給料表により試算したところ、22歳大卒から60歳定年まで正規教諭として働いた場合と、常勤講師として働いた場合とでは、生涯賃金に約3150万円の差があった(この試算に勤勉手当や退職手当は含まれていないので、実際はもっと大きな額となる)。

なぜ、非正規の問題を扱うのか

まず、同じような仕事をしているのに雇用が不安定で、処遇も低く抑えられていることが多いのはおかしい。

しかも、地方公務員法上は、常勤講師があたる臨時的任用は「常時勤務を要する職に欠員を生じた場合において、緊急のとき、臨時の職に関するとき、又は採用候補者名簿がないとき」という例外的な措置であり、「六月を超えない期間で更新することができるが、再度更新することはできない」となっている(第二十二条の三)。

だが、あとで述べるように、臨時的任用は近年増え続けており、緊急的、臨時的なものというよりは「常態化」しているのが実態だ。年度ごとに契約は切れるとはいえ、数年にわたって講師を続けている人も多い。

学校には、やけに細かなルールや指導法まで口を出す教育委員会もあるのに、多くの教育委員会は、この地方公務員法の規定については、事実上無視しているような運用をしてしまっている。

「同一労働・同一賃金」とはほど遠く、子どもたちの身近にいる教員や教育行政がこれでいいのだろうか。ここでは扱わないが、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、給食の調理員、スクールサポートスタッフなど教員以外の職でも非正規雇用は非常に多い。

この問題を扱うもう1つの理由は、ここ数年、全国的に深刻化している教員のなり手不足と密接に関連するからだ。教員不足は「欠員」とも呼ばれ、本来配置する予定だった人数を配置できないでいる状況を指す。

教員不足が起こるのは学校のせいではないが、欠員状態となった学校では、専門外の教科を教えざるを得なかったり、支援学級などでころころ担任が替わったりするケースもある。子どもたちの学びやケアに直結する大問題だ。

全国公立学校教頭会の調査(2023年度)によると、2022年度は約2割の小中学校で欠員状態の時期があった。新学期がスタートするこの4月も十分に配置できない地域が出てくる可能性がある。

教員不足の多くは、非正規職である常勤講師(臨時的任用教員)のなり手がいないことが原因である。ただ、受験者数の減少や内定辞退によって、正規の教員が見込みよりも採用できないケースも一部の自治体で出てきているので、教員不足=講師不足とは言い切れない部分もあることにはご留意いただきたい。

まずは、欠員補充の仕組みから説明しておく必要があると思う。産育休や病気休職の人が出ると(もしくはそれを見越して)、通常は常勤講師(臨時的任用教員)の登録者名簿の中から選ばれる。教員採用試験に受からなかった人に講師登録してもらうことが多い。ただし、正規教員はハードワークなので、あえて非正規職のほうを望む人、定年や育児・介護などの理由で以前退職した人が講師登録をするケースなどもある。

不足を見越してはじめから正規の教員を雇っておくとなると、国・自治体にとっては、後年度の負担も含めて大きな財政支出となるし、産育休などはあとで正規職が復帰してくるのだから、非正規雇用が雇用の調整弁になってきた。「必要悪」と述べる専門家もいる。

そして、以前は教員採用試験の倍率も5倍以上などと高く、不合格者がたくさん出ていたし、何年か講師として経験を積んででも、正規の教員を目指したいという人も多かったので、講師登録者はかなりあった。

しかしここ数年、自治体によっては採用倍率が低くなっており不合格者数は以前より少ない。しかも、民間就職なども活況なので、年度途中から「学校で働いてくれませんか」と言われても、すでに民間などに就職済みの人は多い。こうした結果、各地の講師バンクは払底しており、産休・育休の代替すら見つからないケースも多くなっている。

非正規雇用はどのくらいいるのか

学校で、どのくらいの数の非正規雇用があるのか。文部科学省の資料でほとんど出てくることはない。

そんな中、「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」は毎年情報公開請求をしてデータを入手、整理している。下のグラフのとおり、ここ15年あまり、公立小中学校での非正規教員は増え続けている。2022年度は教員数の約18%を非正規雇用が占めている。

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出所:「教職員実数調」をもとに「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」作成資料

これは全国合計のデータだが、非正規への依存度は、実際は自治体(都道府県・政令市)ごとにかなり差がある。

次のグラフでは、非正規率の高い自治体から並べられている。ただし、20代、30代など産育休を取る年齢層が比較的多い自治体とそうでない自治体があるし、定年を迎える人が多い自治体では再任用は多くなるので、産育休代替と再任用を除いて率を出している。つまり、産育休や再任用を含めると、この数字よりも非正規率は高くなる。

非正規率の高い自治体ほど、教員不足、欠員が生じるリスクも高いということになる(ただし、率の低い東京都などでも近年は年度途中の補充がままならない事態が起きている)。

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出所:「教職員実数調」をもとに「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」作成資料

教員は「高度専門職」と言われるけれど

現在、中央教育審議会(中教審)では、教員のなり手不足などを受けて、教員の処遇改善や学校の働き方改革の推進などを含む施策の議論が進んでいる。

メディアの報道などでも、残業代を出さない給特法のままでいいのかどうかといった論調が比較的多いように思う。こうした課題が重要なことに異論はないし、正規教員の処遇が上がったほうが、なり手不足の解消に向けてはプラスであろう。

だが、これまでの政策でも冷淡だった、教員の非正規雇用の問題について、今回もあまり議論されていないし、注目もされていないように思う。いまや非正規の講師の先生がいなければ、多くの小中学校等で、授業もクラス運営も行事もままならない状況だし、教員不足と直結する問題であり、放置できるものではない。

中教審などでは、教員は「高度な専門職」であるという話が出てくる。専門職という意味合いや、本当に高度な専門職と言えるのかどうかについては学術的にもさまざまな議論があるが、子どもたちを相手にしている先生という仕事は、高度に複雑な知的技術を必要とすることに大きな異論はないと思う。そのため、原則、大学等でたくさんの単位をとって免許を取得しないとなれない。

だが、文科省や研究者の多くは、教員は高度な専門職だとヨイショするものの、冒頭の求人広告のたとえで見たように、とても不安定な非正規職で本当に高度専門職なんて言えるのかについては、答えない。高度な業務や高い質の人材を求めておきながら、処遇はガマンしてね、文句言わないでね、というのでは矛盾している。

さらに付言すると、一部の小学校等では、正規の教員が持ちたがらない「難しい」学級を常勤講師にお願いしているケースがあったり、学級崩壊状態でうつになった教員の代わりに、非正規職を充てるといった人事がまかり通っていたりする。非正規の講師たちが「使い捨て」にされている、と述べる人もいる。

行政は「無謬性」といって、過去の過ちをなかなか正面から認めない、と言われるが、文科省も教育委員会も、これまで非正規雇用の先生を都合よく使ってきたツケが、今日の人材不足を招いていることをもっと受け止めるべきではないだろうか。

この問題をどうしていくのか

では今後、どう解決していくのかというと、そう簡単な話ではない。

約2割も占める非正規雇用に頼らず、正規職の採用を増やしたり、正規への転換を図ったりすることが筋だが、そんな予算があるのかという問題が1つ。また、急激に進む少子化で将来、教員が過剰になる可能性もある中で、おいそれと正規職を増やせないというのが、採用を担当する各都道府県・政令市の言い分だろう。

だが、こうした事情は、文科省や各教育委員会にはわかりきっていたことだ。困難も制約も大きいが、だからこそ、どんな制度や仕組みが必要なのか、アイデアと知恵を出していく必要があると思う。

一例をあげると、常勤講師として子どもたちのために、いくら優れた教育活動等ができても、正規職の採用試験上有利になるわけではない(一般教養試験が免除される自治体はあるが、ほかの筆記試験や面接で落とされるケースもある)。私は、勤務先の校長の評価等によって、採用試験上有利にする仕組みがあってよいと思う 。

それどころか、来年度からは採用試験の一部前倒しの動きがあり、文科省は6月中旬を標準日としている(標準日にそろえる義務はない)。常勤講師をしていると、学校が忙しすぎて採用試験対策をする暇がなくなる、というケースはこれまでも多かったが、事態は一層悪化するだろう。

4~6月は学校が最も忙しい時期だからだ。こうした文科省と教育委員会の動きは、講師の先生にとってはいっそう厳しい仕打ちであり、講師のなり手不足を自ら助長しているとも言える。

先にも述べたが、子どもたちにとっては、正規も非正規も関係ない。場合によっては一生ものの影響がある。正規職にとっても、非正規職にとっても、いきいきと働き続けやすい学校にしていきたい。

参考文献
・佐藤明彦(2022)『非正規教員の研究:「使い捨てられる教師たち」の知られざる実態』時事通信社
・山﨑洋介、杉浦孝雄 、原北祥悟、教育科学研究会編著(2023)『教員不足クライシス:非正規教員のリアルからせまる教育の危機』旬報社
・妹尾昌俊提出資料、中教審・質の高い教師の確保特別部会(第10回)令和6年3月13日

(注記のない写真:8x10 / PIXTA)