グローバル教育の広がり、海外大学進学への関心も高まる
ここ数年で志願者数を増やしている学校の特徴を表すキーワードの1つに、グローバル教育への取り組みがあります。学校取材に行くと、短期の海外研修旅行だけでなく、6カ月〜1年間の留学プログラムを持つ学校が増えている印象です。
実際、コロナで止まっていた留学への関心も、ここ1〜2年で高まっていると私学関係者から聞くことが多くなりました。生徒にとっては、例えば1年間留学した場合でも、留学中の単位が認定されて元の学年に戻れる単位認定制度が広がりチャレンジしやすくなっているのも一因でしょうし、親にとっては、人口減少などで日本経済の縮小傾向が歴然としている中、子どもの将来を見据えた投資でもあるようです。

教育ジャーナリスト/マザークエスト代表
小学館を出産で退職後、女性のネットワークを生かした編集企画会社を発足。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに数多くの書籍をプロデュース。その後、数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして紙媒体からWebまで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。「子育ては人材育成のプロジェクト」であり、そのキーマンであるお母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。著書に『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)、『成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの「探究力」の育て方』(青春出版社)などがある
(写真:中曽根氏提供)
首都圏の中高一貫校の海外大学合格者数もここ数年増加傾向にあり、海外大学進学への関心も高まっています。
しかし、海外大学進学には国内大学進学とはまったく違う準備が必要なので、サポートが必要です。なので、合格者数が多い学校には、国際バカロレアプログラムや帰国生、国内インターナショナルスクール出身者対象のインターナショナルコースを併設しているところが目立ちます。
一方、最近は日本の学校に通いながら、同時に海外の高校卒業資格が取れるプログラムを持つ学校も出てきています。今回はその1つ、USデュアルディプロマプログラム(以下、DDP)について取材しました。
日米の高校の卒業資格が取れる「デュアルディプロマプログラム」
DDPは、オンライン教育により、日本の中学・高校に通いながらアメリカの高校の卒業証書が同時に取得できるプログラムです。
プログラムを提供しているのは、アメリカのロードアイランド州に実在する1924年創立の名門プレップスクールPCD(プロビデンス・カントリー・デイスクール)。ここは、大学進学準備教育を目的とする寄宿学校として設立された名門校です。
そのPCDが、世界25カ国でオンラインプログラムを推進するハドソングローバルスカラーズと共同で開発したのが、PCDグローバルキャンパス。アメリカのハイレベルな教育プログラムをオンライン化して提供しています。
日本における運営母体は、JAAC学術センター。ここは、アメリカの大学で学ぶ日本人留学生をサポートすることを目的に設立された団体で、留学事業のほかハーバード大学との連携プログラムなど国際教育プログラムの開発も行っています。現在、国内にはこのプログラムの加盟校が39校(公立・私立・通信制含む)あります。その顔ぶれを見ていくと、やはりグローバル教育に力を入れている学校が多い印象です。
卒業と同時に全米トップ2〜8%の大学への入学が保証される
DDPの最大のメリットは、留学をしなくても、日本の学校教育を受けながら同時にアメリカの高校教育を英語で経験でき、海外大学進学の道も開ける点です。
規定の成績(4段階で2.5以上)を収めて修了し、国内の高校を5段階で3.5以上の成績で卒業できれば、全米トップ2〜8%に含まれるパートナー大学への入学が100%保証される入学保証制度があるのです。
なお、通常それらの大学に合格するためには英検準1級相当のTOEFLやIELTSのスコア、アメリカの大学進学適性試験SATやACTの成績の提出も必要ですが、それも免除されます。つまり、このプログラムを修了したことで、それ相応の実力があると見なされるわけです。
また全米200校以上の大学が加盟する給付型奨学金制度への参加資格も得られます。当然、それだけの実力があれば、国内難関大学に総合型選抜で挑む場合にもかなりのアドバンテージになるでしょう。実際、受講生の約半数は、総合型選抜で慶応・早稲田・GMARCHをはじめ、国内の難関大学に進学しています。
海外大学進学が広がっているとはいえ、とくにアメリカの大学の学費はうなぎ登りですし、しかも円安で保護者の負担はかなりのものになりますから、留学制度の充実している国内大学を経由して海外大学に進学するほうが現実的という家庭も多いのではないでしょうか。
その点、状況を見ながら国内・海外どちらの大学も選べるのは、DDPのメリットと言えるでしょう。
DDP入学には英検2級程度の英語力が必要
では、具体的にどのようなプログラムなのでしょう。実際にこのプログラムを修了した生徒に話を聞きました。
今回話を聞いたのは、李 蒔温(りしおん)さん。城西大学附属城西高校の3年生で法政大学グローバル教養学部への進学が決まっています(取材当時)。
李さんがDDPに入学したのは、高校1年生の時。将来英語を積極的に使っていきたいという希望もあり、城西高校が加盟校になった初年度にたった一人で参加を決めました。
ちなみに、李さんが英語を本格的に学び始めたのは中学1年から。DDP本コース入学条件である英検2級を中学3年生で取得して参加しました。
李さん曰く、英検2級程度の英語力はマスト。ギリギリ学習についていけるレベルだそうで、英語力に自信がない生徒には、受講時に求められる英語力を短期間(最短16週間)で養成するための準備コースがあります。
プログラムの履修期間は2年間(1学期16週間×6学期)。1科目あたり8週間(2カ月)で、下図の各分野の科目を履修していきます。
1週間の平均学習時間は、週4時間のオンライン個人学習と週3時間のオンラインライブ授業の計7時間です。李さんは、昼間の高校の授業と部活も続けながら放課後と週末の時間を使って学習を続けたそうです。
コツは学校の定期考査にかからないようにレポートを仕上げること。プログラムを通して、計画を立てて実行する力がついたと話してくれました。
日本の高校生がPCDの高校卒業証書を取得するためには、日本の中学3年から高校3年の4年間の履修科目から認定する15単位(15科目)と、DDPで履修する5単位(10科目)、計20単位が必要です。

DDPのカリキュラムは、アメリカ本校でも行われている内容で、国内外の優れた大学への進学に求められるアカデミック イングリッシュ スキル、クリティカル シンキング スキル、イングリッシュ コミュニケーション スキルを実践により向上させ、かつ、これからのグローバル社会で活躍するための素地となる知識の習得を念頭に選ばれています。
アカデミックなリベラルアーツ教育プログラム
李さんが最も印象に残ったのは、再生可能エネルギーに関する授業。欧米の再生可能エネルギーの現状について学んだうえで、風力発電のメリット・デメリットについてオンラインクラスで、英語でディスカッションを重ね、そこから導き出した答えを自分なりにまとめてレポートにしていきました。日本の高校の授業ではほとんど取り上げられることのない課題を通して、視野を広げることができたのもよかったと言います。
ただ、「後半の英語で英語を学ぶ授業では、ラテン語学習も必要になり、精神的にもかなり苦しかった」と李さん。しかし、クラス担当のネイティブと日本人スタッフによる手厚いサポートやクラスメイトとの励まし合いなどでなんとかクリアできたそうです。
やはり、こういうプログラムをやり通せるかどうかは、本人の強い意志はもちろんですが、サポートシステムや仲間の存在がどれだけあるかも重要です。プログラムを選ぶ際には、こうしたサポート体制や卒業率もチェックしておきたいポイントです。ちなみに、DDPの卒業率は約90%だそうです。
最後に、日米の授業を比較して、感じたことを李さんに聞きました。

数学の授業は日本のほうが優位だけれど、例えば芸術や音楽についての深い学びや、実践的な社会課題と結びついた学びなど、文理を問わない分野の広さと深さは日本の教育にはない魅力だと言います。近年、日本でも探究的な学びが重要視されていますが、そもそも学びに対する考え方が欧米とは違うようです。
また授業のやり方も日本の学校とは違い、圧倒的に発言の機会が多く、主体的に授業に参加することが求められるので、英語力だけでなく、コミュニケーション力も身についたという李さん。
DDPの学びを通して視野が広がったので、大学ではさらにさまざまな学問について学び自分の専攻を決めてから、大学の派遣留学制度を活用して海外大学に進学したいと考えているそうです。
DDPのデメリットは学費の高さ
このような学びを通して、クリティカルシンキングと世界の大学が求める高度なアカデミックな英語力を身に付けることができるDDPですが、最大のデメリットは何と言っても学費の高さでしょう。
資料によると、2年間の総費用は271万5000円。円安とアメリカの物価高騰により、さらにアップする可能性があります。
高額なので、誰でもできることではありませんが、高校の授業料無償化の動きも広がる可能性もあるので、その分をこうしたプログラムに回すのも1つの考え方です。また、海外大学の場合は初年度返済不要の奨学金を得て、世界中の大学から自分が選んだ志望大学へ進学することも可能なので、検討する価値はありそうです。
城西中学にも、このプログラムがあるので入学を決めたという受験生もいるそうで、今後李さんの後に続く在校生も増えていきそうです。
公立の千代田区立九段中等教育学校や通信制高校の日本航空高等学校通信制課程も加盟校に名を連ねていますが、加盟校では奨学金を出しているところもあり、総費用は異なるので確認をしてみてください。
少しずつ日本でも新しい学びの形が広がっています。進路は一つではありません。変化の時代にどんな学びがお子さんにとって有用なのか、まずは知ることから始めてみてはいかがでしょうか。
(注記のない写真:城西高校提供)